わずかでもチャンスがあるなら、何かを犠牲にしてでも挑戦したい――。僕に、そう思わせてくれるレースが“世界最高峰”と称される凱旋門賞です。日本ダービーもまた勝ちたいし、ジャパンCも有馬記念も勝ちたい。ケンタッキーダービーもキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSの栄誉も、この手でつかみたい。夢は、たくさんあります。それでも、どれか一つだけ、と言われたら、迷わず「凱旋門賞」と答えます。
そんな僕に、今年、大きなチャンスをプレゼントしてくれたのが、世界に冠たるアイルランドのエイダン・オブライエン師。騎乗依頼をいただいたパートナーは、クールモアグループとキーファーズの松島オーナーが共同で所有しているジャパンでした。
帰国後2週間は自宅待機となるため、秋華賞には騎乗できないことは分かっていました。ルールには従うしかありません。“だったら、今回はやめておいたら”と言う助言もいただきましたが、僕の心の中は、1ミリも揺らぐことはありませんでした。
今年、一度も勝てていないジャパンですが、競馬は、出走するすべての馬に、すべてのジョッキーに勝つチャンスがあります。番狂わせ、大番狂わせが起こるのが、競馬の面白さの一つです。目指すのは頂点。目標は、まだ、僕があんちゃんの頃に挑戦させてもらったサガシティ(3着)超えです。勇躍、フランスへ。僕の心は弾んでいました。
ところが、レース前日の夜、尿検査の結果、凱旋門賞に挑戦することになっていたA・オブライエン厩舎の4頭から、禁止薬物の陽性反応が出てしまい、出走取消という事態に。アイルランドでの事前検査はクリアしていたそうなので、国によって検査の精度が違うということなのでしょう。これが、国をまたいだ競馬の難しさです。
――喪失感でいっぱい? そう……ですね。
――悔しい? 当然です。
でも、ディープインパクトで勝てなかったことも、今回のことも、すべて含めて、いつか、大きな勲章をこの手にするための糧になると信じています。積み重ねた経験と悔しさを、倍返し……10倍返しにします。
それに、今回のフランスは、悪いことばかりではありませんでした。10月2日、サンクルー競馬場で行われたリステッド競走・ダリア賞をキーファーズが所有するアマレアで快勝! マスク着用での競馬は初めてで、ちょっと戸惑いもありましたが、レースが始まれば、馬上にいたのは、いつもの武豊でした。
禍福は糾える縄の如し。今回のフランス遠征は、プラスとマイナスを考えると、マイナスのほうが大きいですが、このマイナス分は、菊花賞以降のG1レースで、きっと返ってくるはずです。
2週間の自宅待機で、英気を養い、元気な姿で皆さんの前に登場するので、楽しみにしていてください。
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