「桜が咲いております」の初セリフから半世紀以上。車寅次郎が旅した愛すべき各地の名所の魅力に迫る。
渥美清主演の国民的映画
名優・渥美清主演の国民的映画シリーズ『男はつらいよ』が、公開55周年を迎えた。寅さんといえば旅であり、出会いである。
そこで、きたる行楽シーズンに合わせて、改めて寅さんとにちなんだ全国の観光地、名所を振り返ってみたい。
『男はつらいよ』シリーズは全50作品。寅さんは、ニッポン全国を旅した。
「『男はつらいよ』ロケ地巡りツアー」を企画し、BSテレ東『寅さんと50年』にも出演した山岳ガイドの高野努氏は語る。
「『奮闘篇』(1971年)のロケ地だった青森にある嶽温泉の旅館で、“ここは『寅さん』に出たんですよね?”と聞いたら、“ウチのおじいちゃんが映画に出ているよ”と言うんですよ。そうした話は日本全国にあるんだと思います」
なにしろ、ロケをやっていない都道府県は、埼玉、富山、高知だけなのだ。
旅先では安宿で日本酒をチビチビやるのが定番
全国津々浦々を巡った寅さんにとって、旅とは、どんなものなのか?
「寅さんの旅は商売が前提です。基本的に貧乏旅なので、泊まるのは安い宿。たまに歓待されて大宴会に参加することもありますし、『寅次郎相合い傘』(75年)ではリリーさん(浅丘ルリ子)たちと長万部でカニを食べに行きます。
しかし、それは特別なことで、ふだんは旅先で、その地の名物料理をたっぷり食べるということは、まずありません」(前同)
寅さんには旅が日常であるため、贅沢はしない。安宿で日本酒をチビチビやるのが定番のスタイルだ。
メジャー観光地は少ない
ページ以降の表を見て分かるように、行き先は誰もが知るメジャーな観光地は意外に少ない。
映画評論家の秋本鉄次氏は、このように考察する。
「京都の有名な寺とか、厳島神社のような荘厳な建築物とか、そうした場所にはあまり行かないですね。寅さんが行きそうな小さなお祭りがある場所というのは、著名な観光地と多少ズレるのかもしれません」
前出の高野氏も同意見だ。
「先日、『寅次郎紅の花』(95年)のロケ地だった加計呂麻島に行ってきました。素晴らしいところでしたが、あそこも、けっして全国から人が集まる観光地ではないんです。『花も嵐も寅次郎』(82年)は大分の湯平温泉がロケ地ですが、普通なら近くの由布院温泉で撮ると思うんです。それをしないのが、山田監督のこだわりなんでしょう」