人生に役立つ勝負師の作法 武豊
枠順の違いが勝敗をわけたレース


枠順による有利不利は存在するのか?
答えは、間違いなく、YESです。

昨年、日本初の試みとして大きな注目を集めた「有馬記念」の公開抽選を思い出してみてください。馬の性格や戦法によっては、真ん中からやや外目の枠を希望する陣営があるかも!?
と思っていましたが、きれいに内側から埋まっていきました。

「今日のコース状態だと、内外による有利不利は、ほぼ、ないですね」
解説者の方が言われるように、そこまでの差はない……というケースもありますが、この"ほぼ"というのがクセモノ。舞台がGⅠで、力の差がない馬同士が、力の限りを尽くして闘ったときには、この"ほぼ"が天と地ほどの差になることだってあるのです。

あれは2006年5月14日。マイル女王を決める記念すべき第1回「ヴィクトリアマイル」のことです。
走るからには勝ちたいと思う気持ちはどのレースも同じですが、GⅠで、しかも、歴史にその名が刻まれる第1回のレースです。各陣営とも、いつも以上に力が入るのは当然です。

「春に古馬牝馬のGⅠレースを作ってほしい」
かなり前から訴え続けていた僕も同様でした。初代女王を目指し、心は熱く、でも頭は冷静に――優勝するためのシミュレーションを幾通りも考えていました。

そして、レースはほぼ思い描いていた通りに運んでいました。
1枠に入った桜花賞馬、2番人気のダンスインザムードは内ラチ5~6番手を追走。1番人気に推されたNHKマイルCの優勝馬、ラインクラフトは、そのダンスインザムードが見える絶好の位置をキープし、さらにその後、4番人気のディアデラノビア、5番人気のヤマニンシュクル。大外18番枠からスタートした僕とエアメサイアは、レース前半、後方でジッと我慢です。

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