勝負は最後の直線――読みにも狂いはありませんでした。GOサインを出すタイミングもこれ以上ないという最高の機を捉えたものだったし、それに応えてグンと加速したエアメサイアの走りも完璧でした。
その証拠に、エアメサイアが繰り出した3ハロンの脚は、メンバー中最速となる33秒4のタイムです。
それでも、先に抜け出したダンスインザムードをついに捉えることができなかったのは、東京競馬場、芝1600メートルコースの枠順による差でした。
レース直後、口には出しませんでしたが、「もし枠順が逆だったら……」と、唇を噛んでいました。
しかし、抽選の段階からすでに競馬は始まっていて、決められた枠順、天候、馬場状態など、すべて含めて"競馬"です。
調教師の先生やスタッフ、僕ら騎手は、ライバルだけではなく、目には見えないものとも闘いながら、大きな勲章を目指しているのです。馬同士の力の勝負はもちろん、こんな目には見えない勝負の駆け引きも、愉しんでください。
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