攻防 2 警察が犯した3度の決定的ミスとは

事件は、なぜ未解決となってしまったのか。北芝氏いわく、警察はある程度のところまで犯人を絞り込んでいたという。
「非常に悔まれる事件なんです。警察は犯人に肉薄しており、逮捕のチャンスも3回ありました。しかし、あと一歩のところで失態を犯す。これがなければ、事件は解決していたはずです。犯人には"幸運"としか言いようがありません」
北芝氏が悔しそうに語る"警察の失態"。その一度目は、84年6月28日、丸大への脅迫で、犯人の現金要求の取引に応じたときのことだった。

その数日前、丸大の社長宅に「グリコと同じ目にあいたくなかったら、5000万円用意しろ」という脅迫状が届くと、丸大は警察に届け出るとともに現金を用意。受け渡しには社員に扮した捜査員が見張り役の捜査員とともに向かった。
犯人からの指示は、国鉄高槻駅から京都行き各駅停車の後ろから2両目に乗り、窓から白い旗が見えたら現金の入ったバッグを放り出せというものだった。
「しかし、社員に扮してバッグを持った捜査員は、先頭車両に座ったんです。これは作戦でした。違う場所に座れば、犯人が探し回るかもしれない。すると、その策にかかったかのように、車両を移動する不審な男が現れたんです」

癖毛の頭髪に鋭い目つき……これが後に"キツネ目の男"と呼ばれる人物だ。だが、捜査本部から職務質問の許可は下りなかった。電車内で張り込んでいた7人の捜査員は、尾行するも、京都駅で見失う。
「現場を押さえて、一網打尽にするというのが、本部の方針だったんです。確かに、不審人物を職質したところで、とぼけられたら、それ以上の拘束力はないですからね。下手に動けば、犯人に警戒されます。でも、この男は間違いなく犯人の一味です。なにせ違う現場に再度、現れているんですから」

それが2回目の失態の現場だ。11月に入ってハウスが脅迫されたときのこと。これが一連の事件で最大のヤマ場だったと言えよう。
「ハウスの総務部長宛に現金1億円を要求する脅迫状が届いた1週間後の11月14日、滋賀県にある名神高速道路の大津サービスエリアに向かえとの指示があったんですが、そこに張り込んだ捜査員が、キツネ目の男を目撃しているんです」

一連の事件で犯人が現金を要求する場合、指示のあった場所に行くと、そこには次の場所を指定するメモがあり、そのメモの場所に行くと、またメモが……というケースが多く、このときもそうだった。まず、京都市内のレストランで待つと、国道沿いのバス停に向かえと指示され、そこにあったメモの指示どおりに、京都南インターチェンジから大津に向かったのだ。

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