攻防 3 キツネ目の男になぜか職質せず!?

「大津サービスエリアで犯人を目撃したのは、丸大の取引のときに電車でキツネ目の男を見た捜査員です。さぞ、職質したかったでしょう。しかし、ここでも本部からの指示は"尾行のみ"でした」
またもや警察は、その男を見失ってしまった。
警察官はなぜ、そこまで上からの指示に忠実なのだろうかと思ってしまうが、
「指示を無視するのって、ドラマではよくありますが、現実ではあり得ない。人事考課に赤字で"捜査指示を無視"って書かれたら昇進はストップ、飛ばされることだってあります。私の知人は、警視庁の本店から新島の派出所に異動になりました。だからと言って、辞めたところで、再就職先の斡旋すらなくなってしまうんです」

警察官の場合、依願退職すると、警察の外郭団体や警備会社などの再就職先を紹介してもらえるのだが、それもない。つまり、指示を無視すると、家族が路頭に迷ってしまう。そのくらい、警察官にとっての捜査指示は"絶対"なのだ。
犯人の指示で現金を持参した捜査員は、大津から草津パーキングエリアに向かうと、今度は"そこから5㎞先のフェンスにかかった白い布の下の空き缶に手紙がある"との指示。しかし、指定の場所に白い布は見つかったが、空き缶はなかった。結局、今度も犯人は姿を現さなかったのだ。

実は、この頃、3回目の失態が起きていた。白い布がかかった付近の高速道路高架下の一般道に白いライトバンが停車しているのを、偶然通りかかった滋賀県警のパトカーが発見していた。警察官が近づくと、ライトバンは急発進、パトカーも追走したが、草津駅前の商店街で見失ってしまう。
その直後、商店街の外れでライトバンは発見されるが、乗っていた男の姿はなかった。車には改造されたアマチュア無線が残されており、その周波数は警察無線の「滋賀一系」にセットされていた。

結果として不審人物を取り逃がした県警、そして今回の現金取引のことを県警の警察官に連絡を徹底していなかった捜査本部……警察は激しく非難された。
「これが一番決定的だったんじゃないかと思います。あのとき職質していれば、展開は違ったでしょうね。ハウスの事件に対する捜査本部の方針は、大阪府警が単独で行うというもので、高速道路から50mのエリアに、滋賀県警は入るなと言われていたんです。滋賀県警は捜査本部から相手にされていなかったんです」

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