主戦場を外国に移した一時期を別にすると、今年ほど海外のレースに参戦するチャンスをいただけた年はありません。香港、ドバイ、アメリカ、イギリス、フランス。鞭と鞍の入ったバッグ片手に海外を飛び回りたい――競馬学校の頃から憧れていたそんな日々が一段落した今、とても心地よい疲れと充実感を味わっています。

 それにしても。海外に行って改めて気がつくのは、日本では当たり前だと思っていたことが、世界では案外、そうでもないということです。

 車の右側通行、左側通行もそうだし、電車が時刻表通りホームに滑り込んでくるのも日本ならでは。楽しみは夕食を食べたあとでゆっくりと味わいたいというアメリカやヨーロッパの人にとって、平日のコンサートやスポーツが午後6時に始まるというのも、ありえないことのひとつです。

 競馬も同じで、日本でクラシック三冠戦といえば、4月中旬に行われる「皐月賞」。「日本ダービー」は5月の最終週で、夏を挟んで秋が「菊花賞」。これが当たり前ですが、アメリカでは、わずか5週間の間に三冠レースすべてが開催されます。スタートは、5月第1週の土曜日、チャーチルダウンズ競馬場で行われる「ケンタッキーダービー」。その2週後に、ピムリコ競馬場で、「プリークネスステークス」が、さらに3週間後に、ベルモントパーク競馬場で、「ベルモントステークス」と続きます。

 このハードスケジュールは、馬と関係者にとっては、とにかく過酷。過去に三冠を制したのは、1919年のサーバートンから数えて、わずか12頭だけです。――いつか、自分も。思い続けてきた夢が今年、ついに叶いました。

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