この細川の配球と同じようなシーンが15年前にあったという。それが近鉄対ヤクルトの日本シリーズ。伊勢氏は近鉄のコーチとして古巣ヤクルトと対決することになる。相手の捕手は“野村IDの申し子”古田敦也だった。

「1戦目、(石井)一久にピシャリと抑えられて、2戦目や。8回に五十嵐(亮太)が出てきたのよ。打席にはタフィ・ローズ。2-2からストライクからボールになるフォークを悠々と見逃した。フォーク待ちやったんや。それで2-3から敦也は続けてフォークを投げさせた。それを打って3ランや。あくる日“なんで真っすぐじゃなかったんや? フォーク待ってたの分かってたやろ”って聞いたら、“もちろん分かってました。フォークなら打たれても長打はない。真っすぐならホームランがある。だけど、フォークが落ちなかったんですよ”って言うとったけどな。ローズに“フォーク待っとんたんやろ?”って聞いたら、“ボクにはフォークしかないでしょ、イセさん”って。お前も、だいぶ日本の野球に慣れたなって言うた記憶があるよ」

 このとき、古田の年齢は36歳。名捕手といえどもベテランとなって、配球に偏りが出てしまったのか。「敦也は球種がたくさんある投手が好きで、ねちっこくリードするんだけど、球種が少ないと“もう邪魔くさい”ってなるタイプなんや。カーブがボール、スライダーもボールになると、“あー、これでいけ!”って真っすぐを投げさせる。ノムさんが“なんで、そこで真っすぐやねん”ってよくボヤいてたわ」

 配球については、野村IDを受け継ぐ伊勢氏にとって大の得意分野。興味深い話が次々と飛び出した。その中で特に印象深かったのが、「セとパのリードの違い」だった。

「たとえばセではシュートを投げてボールだった場合、次もシュートという配球はない。80%の確率でないな。シュートがボールになったら、次は外にスライダーとなるわけよ。だけど、パではシュート、シュート、その次もシュート。4球続くこともある。伊東勤に聞いたことがあるんだけど、勝負球らしい。96年にコーチで近鉄に移ったときも、古久保(健二)が2-2のカウントで、ようシュート使うねん。ボールになったら2-3で投手が不利やん、他に使いやすいカウントがあるやろって言うんやけど、古久保も同じこと言ってたわ。勝負球やと。この流れは今も続いてると思うわ」

 配球といえば、セ・リーグCSファーストステージの巨人対DeNAで、DeNAの左投手陣が巨人右打者の内角を果敢に攻めて沈黙させたのが記憶に新しい。「正解やね。今の左投手はインコースを攻めるのが下手。外角に真っすぐ、そのあとまた外に緩いチェンジアップを投げる子が多い。その点、DeNAの今永(昇太)は、インコースにいい球を放ってる。今の時代、貴重やね。もちろん、甘く入ると打たれるよ。次の広島戦では内を狙って甘くなって、エルドレッドに打たれたやろ」

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