「だけど、右投手のアウトロー、左投手のインロー。これが投手の原点。ヤクルトの石川(雅規)が128キロで見逃し三振が取れるのは、外を思わせておいて、内に投げられるからや。それができてたのは、一久かな。インコースを投げられるから、外のスライダーも決まるんや」 野村氏もよく話す“原点”、右打者のインローに投げられない左投手は、投手にあらずということなのだ。

 今季のプロ野球で最も話題をさらったのは、広島の躍進だろう。伊勢氏は、どう見ていたのだろうか。「新井(貴浩)がガラリと変わったね。阪神時代に比べて、最初の構えでタメが十分にできとる。それをほどかずにステップできてるから、逆にも打てる。阪神時代は、それを指摘するコーチがいなかった。広島で誰かが指摘したのか、自分で変わったのか。あいつが打つと、ムードメーカーになるしな。新井が打つと、田中(広輔)とか菊池(涼介)は出塁することに専念できる。新井がいなかったら、優勝できなかったかもな」

 各自が役割を理解し、きちんとこなせているのが、広島の強さにつながっているのだろう。「田中や菊池は走塁にしろ、自分で判断できてやれとるよな。ノムさんは“攻撃のサインはいらん。自分たちで考えたら、何をすればいいか分かるやろ”って言ってたけど、広島はそれができる。先に進んどるわ」

 広島が抜け出した一方、高橋由伸、金本知憲ら“新人監督”の手腕は、伊勢氏の目に、どう映ったのだろうか。「由伸は何をどうしたいのか、分からんかったよな。送るのかエンドランなのか。ただ、コーチ陣に原(辰徳)君の残党が残ってるでしょ。ヘッドコーチが村田真一で、2軍監督が斎藤雅樹やし。小耳に挟んだんやけど、“前の監督のときはこうだった”って言うやつもおるそう。そういうのを一掃しないとアカンよな。これじゃ由伸色が出せない。やりにくいと思うわ。これは会社の責任や」

 開幕前に“超変革”を謳った金本阪神の1年目は、どうだったのだろうか。「新聞に“金本が早出特打ち指導”って出てたけど、コーチは何してんねん。組織って、信頼の置けるやつを置いて、その人に任せるもの。それでダメなら、コーチに“こうしてほしい”って言わな。だったら一人でやれよってことだし、片岡(篤史)も監督の意向を聞きつつ、自分の理論を出さなきゃアカン。何してんねんってなる。金本が悪い、片岡が悪いじゃなくて、超変革って言うなら、そこらから変えなアカンわ。2チームとも、どう変わるか。見させてもらうわ」

 71歳となった今でも、過去のことを事細かに話す伊勢氏。また、ユニフォームを着るに違いない。

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