乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第2回 高橋栄樹が描いた「アイドル」と「個人PV」の自由 1/4

■イメージソースとしての漫画家・志村貴子の作品

 初期の乃木坂46は「16人のプリンシパル」に代表される演劇志向や個人PVといった独自の路線を模索しつつも、なにより「公式ライバル」としてAKB48という巨大な他者にアイデンティティをゆだねる立場でもあった。そのなかで、デビュー初年度の乃木坂46はAKB48の映像作品を象徴する人物を、自らのコンテンツ制作に招聘している。それが高橋栄樹だった。

 AKB48のフィルモグラフィーにとっての高橋は第一に、ミュージックビデオにドラマ要素を色濃く注入した人物である。とりわけ、女子校的な設定を踏まえた群像ドラマを、高橋はAKB48のMVのなかでたびたび描いてきた。

 このとき、高橋の重要な着想元のひとつとして漫画家・志村貴子の作品、特に鎌倉にロケーションをとった2つの学校を舞台に展開される“ガール・ミーツ・ガール”の傑作『青い花』(太田出版)がある。

 もちろん、高橋の監督するMVのなかで志村作品がさほど直接的にうつしとられているわけではないが、女子高という空間のなかで紡がれるいくつもの関係性や、演劇祭に向かって高揚していく喧騒などのエレメントは、高橋の監督するMVの内に、瞬間的に垣間見えるイメージソースとしてある。また、AKB48の『大声ダイヤモンド』(2008年)や『10年桜』『涙サプライズ!』(ともに2009年)のMVはいずれも、「松岡女子高等学校」という架空の高校を舞台にしているが、この校名は『青い花』で主人公の一人・万城目ふみが通う学校と同一のものだ。

https://www.youtube.com/watch?v=F32epua9VQs
(※『大声ダイヤモンド』MV)

 とはいえ、AKB48が体現するカジュアルでアクティブな群像と、『青い花』の端々に漂う静謐さとは、表面的にみるかぎり大きく性質が異なる。高橋自身、「ただAKBと志村さんの組み合わせは若干無理くりなところもなくはなくて、そこで体得した志村さん的な感性がいっそう活かされたのはのちの乃木坂46のときでした」(『ユリイカ』2017年11月臨時増刊号、青土社)と語るように、志村作品からの影響がさらに発露するのは乃木坂46の映像作品においてだった。

 高橋は乃木坂46最初期のCMを手がけたのち、2ndシングル『おいでシャンプー』MVで乃木坂46のフィルモグラフィーに参入する。女子校内の厳しい校則をめぐるドラマが展開される同曲のMVは、高橋が志村作品を通じて培った感性がより投影されたものとしてある。それがダイレクトに反映された一例を示せば、前掲の雑誌『ユリイカ』で高橋が言及するように、MVフルバージョン冒頭のドラマで生駒里奈が階段を走って教員に叱られるシーンは、『青い花』コミックス第2巻で主人公の一人・奥平あきらが階段を駆け上がる場面が着想の源である。

https://www.youtube.com/watch?v=o5ZyokxGIso
(※「おいでシャンプー」MV。You Tubeに公開されているのはショートバージョンのため、上記場面は入っていない)

 高橋は志村貴子的な世界観を託す宛先として、当時デビューしたばかりの乃木坂46というグループを見出した。そして『おいでシャンプー』から3年ののち、乃木坂46の個人PV内の派生企画である「ペアPV」において、高橋はもう一度志村作品の匂いへとアプローチする。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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