乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第2回 高橋栄樹が描いた「アイドル」と「個人PV」の自由 3/4

■初期個人PVの「統一テーマ」

 この連載では、乃木坂46の個人PVと呼ばれる映像作品群に着目し、実験的なショートムービーが無数に生み出される自由な場としてこのコンテンツをとらえている。とはいえ、グループ自体の方向性が定まっていなかったデビュー直後には、個人PVという企画をいかに位置づけるかもまだ心許なく、いささか混乱含みの模索がうかがえる。それを示すのがデビュー初年度、2~4枚目までの各シングル収録の個人PVで設けられた“統一テーマ”である。

 2ndシングル『おいでシャンプー』収録の個人PVでは「デート」、3rdシングル『走れ!Bicycle』では「ぶらり旅」、4thシングル『制服のマネキン』では「苦手克服」といったように、2012年にリリースされた4シングルのうち3つにおいて、個人PVを制作するうえで監督全員に課せられる共通テーマが設定されている。原則としてメンバー一人一人につきそれぞれ別々の監督が起用される方針は変わらないものの、この縛りによって各タイトルに収録される作品に一定の方向づけが試みられた。

 だが同時に、統一テーマに引っ張られるようにして、いくぶん似通った映像表現が生まれやすくなったのも事実である。「デート」テーマの個人PVであれば、デート相手視点の主観映像によって作られたものが多くなり、あるいは「苦手克服」であればバラエティ番組のようなテイストのチャレンジ企画が目立つなど、作品ごとに多士済々のクリエイターが招聘されたにもかかわらず、表現の振幅を狭めてしまう側面がこの試みには付随した。

 しかしまた、高橋栄樹はそうしたテーマ性を鮮やかに読み替え、あるいは超越する映像作品を生み出す監督でもあった。「苦手克服」をテーマに高橋が手がけた、4thシングル収録の生駒里奈の個人PVはその一例である。

https://www.youtube.com/watch?v=GAELqfr9BkY
(※生駒里奈個人PV『生駒里奈×水』予告編)

 水に入ることが苦手になった経緯を生駒自身が語る冒頭部こそ、統一テーマに沿っているようではある。しかしその直後、生駒が身体を水に浸して以降は、制服衣装でプールの中を舞う彼女を追った水中カットが続き、生駒自身の言葉も文字テロップによる説明も一切排されたままエンディングを迎える。

「苦手克服」という課題をあからさまに盛り上げるような演出は最後までなされず、冒頭部のわずかな語りさえなければ、統一テーマの存在を忘れさせるような佇まいをこの作品は持っている。ラストカットの生駒の表情に、チャレンジの結果や彼女の心持ちを読み取ることももちろん可能だが、浮遊する生駒をスローで繊細にとらえた同作の秀逸さは、与えられた企画性に素直に回収されないところにある。この翌年に乃木坂46がリリースしたシングル『ガールズルール』のCDジャケットにも通じる神秘性さえ感じさせる水中撮影は、4thシングル収録の個人PVのなかでも異彩を放っていた。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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