乃木坂46
※画像は乃木坂46のシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』(通常盤)より

乃木坂46「個人PVという実験場」

第2回 高橋栄樹が描いた「アイドル」と「個人PV」の自由 3/4

■「映像」と「アイドル」の普遍性

 高橋栄樹が手がけた乃木坂46の個人PVのうち、特に多層的な意味が生まれているのが3rdシングル『走れ!Bicycle』に収録された生田絵梨花の『1/24物語』である。前回述べたように、この時期の個人PVには、すべての作品を通じての統一テーマが設定されていた。3rdシングルの個人PVでは「ぶらり旅」がテーマに据えられ、各メンバーが東京近郊から韓国、台湾までさまざまな土地を訪ねる様子が収められた。

 このとき、生田と高橋の訪問地として選ばれたのは広島・尾道だった。

https://www.youtube.com/watch?v=syk7WqYQi98
(※生田絵梨花個人PV『1/24物語』予告編)

 前々回(/articles/-/70733)の記事では高橋が監督した生駒里奈と伊藤万理華のペアPV『あわせカガミ』を取り上げたが、その作中で二人が採集していたのが「音」だったとすれば、尾道を舞台にした生田の個人PVで彼女が採集するのは「画」である。

 生田は手回しムービーカメラ「LomoKino」を持ち、尾道の町並みや海、猫などをフィルムに収めてゆく。生田によって撮られるのがシンプルなアナログムービーであるだけに、静止画を連続させることによって被写体が動き出す、映画の原体験のような手ざわりがそこにはある。これはまた、作中で訪れた資料館で生田が触れる、プリミティブな映像体験とも呼応している。

 そして、生田によるナレーションの最後の言葉が、明確に大林宣彦作品へのオマージュで結ばれているように、この個人PVは尾道ゆかりの映画監督や映画作品の存在を背後に色濃く感じさせる。もちろん、大林宣彦はまさに尾道を舞台にした作品群をはじめとして、アイドル映画の一時代をリードした作家でもある。『1/24物語』では生田がそうした映画の歴史にアクセスする旅人として、また同時にこの作品に主演するアイドルとして尾道の町並みを生きる。

「アイドル」という言葉は、時代の移り変わりとともにその定義ないしは示す範囲もまたさまざまにうつろってゆく。大林作品のなかで確立されたアイドル映画路線と今日アイドルの名を冠されている芸能ジャンルとを、粗雑に直線で結ぶことはできない。だがそれでもなお、現在最も活発に映像の実験を試み続ける「アイドル」乃木坂46のコンテンツ内で生まれたこのショートムービーは、アイドルと名指される存在の共通項に時を超えて手をのばそうとしている。

 冒頭に記したように、このときの個人PVには「ぶらり旅」という統一テーマが設定されていた。しかし、そのお題をもとにして高橋が描いたのは、決してオーソドックスな旅情ではなかった。撮る立場と撮られる立場を同時に引き受ける生田絵梨花というアイコンを通して、あるいは映像の原初的体験をたどり、あるいは「アイドル」なるものの普遍性の一片をつかもうとする。『1/24物語』にはそんな趣がある。

 初期個人PVの模索をうかがわせる統一テーマという試みはやがて、4thシングルを最後に姿を消す。それは、あらためてフリーさを手にした乃木坂46の個人PVが、総合的な水準を飛躍的に上昇させてゆく合図でもあった。

乃木坂46「個人PVという実験場」

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