心の「近景」にある「小さな物語」は変わらない【「臨床心理士」東畑開人が語る現代社会で大切なこと】の画像
東畑開人

 臨床心理士として活動しながら、2019年には『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)で大佛次郎論壇賞と紀伊國屋じんぶん大賞を受賞するなど、注目を集める東畑開人氏。

 2022年3月には、カウンセリングについて正面から考え、「読むセラピー」と銘打った『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)を上梓。悩み、行く先を見失いがちな現代の人々の心の問題はどこにあるのか。話を聞いた。

―ご著書『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』ですが、3年前に企画が立った本と伺っています。その後のコロナ禍の中で、東畑さんが感じていることはなんでしょう?

「2年ほど前、全国に緊急事態宣言が出されたときも、カウンセリングルームの中では、クライエントたちがとてもプライベートな苦悩について話をし続けていました。社会で大きな動きがあったとしても、多くの人にとって心の問題というものは重要な問題であり続けるのでは、と思います」

―プライベートな部分は、コロナ禍でもあまり変わらないということでしょうか?

「もちろんコロナの影響はあるとは思います。だけど、やっぱり心の問題として近景にあるのは、それぞれの小さな物語かなと感じています」

―ご著書には、誰に対しても完璧な態度をとる「ホスピタリティがすごいミキさん」の話がありました。彼女には「PDCA(※注)を回しまくっている」という特徴がありましたが、本当にそういう方が多いと思います。ミキさんのような「PDCAを回せてすべてコントロールできる人」が理想的とされている世の中なんでしょうか?

「そうですね……今の社会は、“他者に迷惑をかけていないか”、をすごく気にするようになっています。しっかりと自立して、他者に居心地の悪さを感じさせない。そういう人が優秀とされています。でも、やっぱり、どうしても人は迷惑をかけあっていくものだ、とも思うんです」

【※注 PDCAとはPlan(企画)、Do(実行)、Check(確認)、Action(改善)の頭文字を取ったもの。業務管理で継続的に改善をする方法のこと】

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