■持っているモノが違うとしか言いようがない

 そういう意味では、映画『無限の住人』で不老不死の用心棒を演じた木村拓哉さんも、とてつもなかった。

 このサイズでこのアングルだったら、この構え……というのが自然にできちゃう。しかも、刀の切っ先までキッチリ画角におさまっていて、それがまた最高に決まるんです。

 現場では初めての時代劇出演だった福士蒼汰くんや満島真之介くんをグイグイ引っぱっていて、これがスターというものかと恐れ入りました。

 やっぱり、第一線でやっている俳優さんは皆さん、すごいですよ。『鎌倉殿の13人』には、歌舞伎や舞台で活躍されている方々がたくさん出演されていますが、お芝居が上手な人は、殺陣もうまい。

 ドラマや映画での殺陣って“形”だけじゃなくて、演じながら“感情”で斬るわけです。僕らは、基本の動きは教えられますけど、その先は俳優さんの力なんです。

 北条時政役の坂東彌十郎さんは歌舞伎界の大ベテラン。「映像は不慣れなので……」とおっしゃるんですが、もう立っているだけですごい! 敵を叩き斬るときなんて“これ、NHKで放送しちゃっていいの!?”と思うくらいの迫力です。

 そんな人たちと出会うたびに思うんです。“僕は、殺陣はできるけど、スター俳優にはなれないな”って。殺陣がうまいとか、下手とかじゃなくて、持っているモノが違うとしか言いようがない。

 僕は、18歳でジャパン・アクション・クラブに入団し、ずっとこの世界に身を置いてきました。

 最近はCGやワイヤーアクションが入ってきて、アクション表現の幅が広がった。ただ、プラスアルファという意味ではいいのですが、僕は“継承”ということも大事にしたい。

 アクションをやる若手はいるけど、時代殺陣ができる人材はどんどん減っています。だから、僕が育てていきたいんです。

 変わらなくてはならない部分と、変わらない部分とがあると思います。僕はその変わらない部分を、これまでもこれからも、ただただ愚直に、やっていきたいと思っています。

辻井啓伺(つじい・けいじ)
1963年生まれ。ジャパン・アクション・クラブを経て、数多くの映画、ドラマで殺陣・アクションの指導を行う。スタントチーム・ゴクゥのメンバー。携わった主な作品は、映画『十三人の刺客』『土竜の唄』、ドラマ『精霊の守り人』シリーズ(NHK)、『信長協奏曲』(フジテレビ系)、『半沢直樹』(TBS系)など多数。

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