■天国に行ったら河野と会えるかな
一人暮らしになった今は、料理も自分でしますよ。僕にはノーベル賞受賞者の大隅良典さんをはじめとした“七人の侍”と呼んでいるサイエンスの仲間がいるんですが、最近では彼らとオンライン飲み会をするのが楽しみ。2か月にいっぺん、画面の中に集まります。
彼らとは互いに尊敬しているから、逆に遠慮なく何でも言える関係で、晩年近くになってから、本当にいい仲間に巡り合えたと思います。コロナ禍以前は、7人であちこちに講演に行っていました。秋田では講演の後、乳頭温泉郷にみんなで泊まって、朝の4時まで飲んだりしてね。みんな70歳近いオッチャンですよ(笑)。青春時代がずっと続いている感じですね。
今の歌人としての大きな仕事は、選歌ですね。選者をしている『朝日新聞』の「朝日歌壇」では、1週間に1回、読者が投稿した2500首が届きますから、なかなか時間がかかります。自分の歌を作る時間より、はるかに長い(笑)。「朝日歌壇」の選者は16年間務めていますが、74歳の僕が最年少なんです。94歳の馬場あき子さんからは、いまだに“このコ”って呼ばれていますよ(笑)。
サイエンスの仕事は82歳まで任期が決まっているものもあります。僕はあと10年生きるか生きないかだと思うんだけど……うーん、天国に行ったら河野と会えるかな。生前から
「死んだらもうそれでおしまい」って言っていたような人だから、会えないような気がしますね。だから来世でもう1回、河野と出会って、また始めから恋をしたいですね。
永田和宏(ながた・かずひろ)
1947年生まれ。京都大学理学部物理学科卒業後、京大教授などを経て、2020年よりJT生命誌研究館館長。19歳より短歌を始め、歌人として読売文学賞、迢空賞など受賞多数。宮中歌会始詠進歌選者、朝日歌壇選者なども務める。2009年、紫綬褒章受章。最新歌集に『置行堀』(現代短歌社)。1972年に歌人・河野裕子と結婚。64歳で亡くなるまで38年間連れ添った。
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