■心優しい人が死んでいく……『鎌倉殿』の容赦なさ

 吉田氏が真っ先に挙げたのは、新納慎也(にいろ・しんや=47)演じる阿野全成(あの・ぜんじょう)だった。全成は、頼朝の異母弟かつ義経の同母兄。仏門に入っていて権力争いからは距離をおいており、義時の妹で、宮澤エマ(33)演じる実衣と夫婦だった。

「全成は濡れ衣を着せられて殺されました。頼朝の弟ではありましたが、武士ではなくできるだけ穏やかに生きていこうと思っていた人。普段、占いは全く当たらないのに、死に際では暗雲が立ち込めて雷が落ち、彼の祈祷が奇跡を起こしたかと思いきや、その後殺され、天気は晴れるという劇的な死でした。

 さらに、実衣とは信頼し合っていた夫婦で、義時の義弟であってもこんな粛清のされ方をするんだ、というやりきれなさをすごく感じました。家族の中でダメンズ扱いされてはいましたが、気が弱くて風情のあることが好きな優しい性格なので、現代だったら生きていただろうなと思いますね」(吉田潮氏=以下同)

 心優しく、穏やかな人物だった全成の死を受けて、視聴者からは「全成かわいそうすぎる」「全成が癒し系だったので、歴史上来ると分かっていた出来事だけれども、辛かった」といった感想が寄せられていた。

 つづいて、吉田氏は「佐藤浩市さん(61)演じる上総広常の死は、義時が“この時代を生き抜くには”ということを意識したエポックメーキングな事件だった」と話す。

 広常は頼朝の挙兵に協力した、最も有力な坂東武者だった。しかし。そのリーダーシップが脅威とみなされ、御家人たちの謀反計画を知った頼朝が、広常のみを見せしめとして殺害することを決め、4月17日放送の第15回で殺害されてしまう。当時の義時は、この殺害計画に猛反対していた。

「佐藤浩市さんは、04年の『新選組!』出演時も死んでいたので、三谷幸喜さんの大河ドラマでは“死ぬ”のが定番ですね(笑)。広常はずっと頼朝と仲良くしてきて、これから鎌倉殿を盛り上げていこうと話していたところを殺された。“なんで?”という思いが伝わってくる佐藤さんの演技で、疑問と無念の死を迎えた広常のビジュアルが脳裏に残っています」

 視聴者からは「見せしめに斬られた上総広常が不憫すぎる」「可哀想で可哀想で泣いた。演じている大泉さんごと頼朝が嫌いになりそうな回でした」と、広常の退場を惜しむ声が送られた。

 そして、視聴者から恐れられていた、梶原善(56)が演じた暗殺者の善児の死も印象的だったという。善児は8月28日放送の第33回で山本千尋(26)演じる自らの弟子の暗殺者・トウに命を奪われた。

「今までさんざん手を汚してきた善児ですが、源頼家の息子に情が湧いて殺せなかった。人間らしい情が生まれた時に、手塩にかけて育ててきた弟子の殺し屋・トウに殺され、“因果応報”という言葉が真っ先に浮かびました。全成や広常の死のように“悼む”というよりは、善児の死には“やっぱりそうだよね”という納得感がありました」

 視聴者からは「トウは善児を恨んでたのかーってかそらそうか」「善児死んで悲しくなるとは最初の頃思いもしなかった」「残忍な暗殺者の最期、まさに因果応報とはいえ、堪えるよ……哀しい」と、善児の死について一言では表すことのできない複雑な思いを抱えている声が多くあった。

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