■死ぬまで悩み続けて、まだまだだな、と思いながらこの世を去るんだろうな

 当時は、いったい自分の何がダメなんだろう? と落ち込みましたが、そのときは、自分の芝居がヘタクソだからということも分からなかった。今思えば、ひどいもんです(笑)。

 それでも、2作目、3作目とやらせていただいたのですが、そんなにすぐできるようになるもんじゃない。今でも「いつになったら、自分が納得できる演技ができるんだろう?」って思いますからね。この問いについては、最近では、「死ぬまで悩み続けて、まだまだだな、と思いながらこの世を去るんだろうな」と考えるようになりました。

 ごく稀に、監督や先輩から「あのシーン、よかったよ」なんて褒めていただくと、そりゃもう有頂天もいいところですよね! まるで天から響いてくる、美しい調べのように感じます(笑)。

 最近では朝ドラ『カムカムエヴリバディ』で、雉真勇という登場人物の老年期を演じさせていただきました。若い頃を村上虹郎さんが非常に魅力的に演じておられたので、最後に僕が出てイメージを壊しちゃうんじゃないかと心配だったけれど、いい反響をいただいて、とてもうれしかったですね。

 気づいたら人生のほとんどを俳優として過ごしてきました。それでも、舞台に出るときや、映像で「本番!」の声を聞くときは、緊張のあまり逃げ出したくなるんですよ。だから心の中で「えいっ」とかけ声をかけ、自分を鼓舞してから、本番に挑んでいます。

 70代も半ばになり、記憶力や体力の衰えを日々実感していますが、1行でも2行でも台詞を覚えられる限りは、続けていたい。そしていつか『そういえば最近、目黒祐樹を見な
いね』みたいな感じでフェードアウトするのが、僕の俳優人生には合っているのでは、なんて思っています。

目黒祐樹(めぐろ・ゆうき)
1947年8月15日生まれ。東京都出身。子役として映画に出演後、69年に映画『太陽の野郎ども』に主演。以来、数多くの映画、ドラマ、舞台に出演。主な出演作は、映画『華麗なる一族』『ヤマトタケル』、ドラマ『鬼平犯科帳』(フジテレビ系)『鞍馬天狗』(テレビ東京)、ミュージカル『アニー』など。俳優の近衛十四郎を父に、女優の水川八重子を母に、俳優の松方弘樹を兄に持つ。

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