北村有起哉(撮影・弦巻勝)
北村有起哉(撮影・弦巻勝)

「役者になる」と心に決めたのは、高校生のときのことでした。

 父(故・北村和夫氏)を見てきたので、そう簡単に成功できる世界じゃないことは分かっていました。だから、やれることは何でもやりましたね。レンタルビデオショップでアルバイトしながら、商品棚からあらゆる映画を見たのもこの頃です。個人経営の小さなショップだったから、店主も大目にみてくれて(笑)。

 とにかく必死だったあの頃……。今では思い出すことも減ってきたけれど、不思議なもので当時耳にしていた音楽を聴くと、ふと当時の思いがよみがえることがあります。好きだった女の子のこととか、あのときの担任はむかついたな、とか(笑)。ある世代……僕よりも少し年上の人たちにとって、『亜無亜危異(アナーキー)』というパンクバンドの曲も、その一つではないかと思います。

 ブルーハーツが好きだった僕はその存在を知ってはいたけれど、まさか自分が『アナーキー』のギタリスト、藤沼伸一さんが監督を務める、アナーキーがモデルの映画にパンクロッカー役で出演することになるとは、思ってもみませんでした。

 映画『GOLDFISH』で僕が演じるのは、『ガンズ』というバンドのギタリスト、ハル。2017年に他界した、『アナーキー』のマリさん(逸見泰成)がモデルになっています。

 ですから、マリさんのお墓に手を合わせるところからはじめて、慎みながら演じさせていただきました。矛盾してますけどね、慎みながらパンクをやるっていうのは。でもこの作品は、マリさんへの鎮魂歌という意味合いもあると感じていたので、ちゃんとやらないと、マリさんはもちろんのこと、『アナーキー』を愛している人たちに失礼になると思って。

 映画では、10代でガンズをやっていた男たちが30数年を経て、再結成しようとします。当たり前のことだけど、30年という年月は人を変える。でも、どうしようもなく変わらない部分もある。

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