部隊の"お守り"になった手紙

入浴支援部隊を指揮したのは、第13後方支援隊補給中隊長・田中孝幸1尉だった。

「私は新潟中越地震、そして東日本大震災にも派遣されており、今回で3回目の入浴支援となります。発災から避難所生活を送られている人には、これが初めての入浴という方も多く、"久しぶりにゆっくり眠れそうです" "気持ちよかった"などとおっしゃっていただきました」

三入小学校で入浴支援を行っていた隊員が、小学校低学年の女児から、封書を受け取ったという。ピンク色の封筒には流行のアニメ『妖怪ウォッチ』のキャラクターのシールで封がしてあった。中を開けてみると2枚の便箋が入っていた。

〈じえいたいのみなさんへおふろを作っていただきましてありがとうございました。はやく人達をたすけてください。まだ土でうまっているかもしれません。はやく人達をみつけてください〉(原文ママ)

2枚目をめくると、自身の姿だろうか、子どもが敬礼をしているイラストが描かれていた。この女児の手紙は自衛官の胸を打ち、部隊のお守りになったという。

26日からは梅林小学校での入浴支援も開始された。

1日平均80名が入浴するという。自衛隊のお風呂は至ってシンプルな構造だ。まず鉄パイプで形を作り、そこにビニールシートを張る。

これが浴槽となる。ここに張る水の量は4トン。水温は38度から40度くらいと、若干ぬるめに設定する。

ボイラーを担当する大場亮典士長は、「適温になるまで1時間半ぐらいかかります。温度計を見たり、入浴している人に湯加減はどうですか、と声をかけて、温め直していきます」浴槽の脇にはシャワー付きの洗い場も用意され、男湯と女湯に分かれている。

東日本震災時にも実施された自衛隊による入浴支援。最愛の家族を失い、絶望の淵にあった東北の被災者は、この"自衛隊風呂"で「生き返った気がした」と言ったという。

9月3日時点で、広島土砂災害の行方不明者の数は2名。用水路の水や土砂を抜くなどして、捜索範囲を広げている。自衛官と警察官が協力し合い、泥まみれになりながら、土砂をかき出していた。隊員たちのヘルメットには「百万一心」と書かれたステッカーが貼られている。

これは中国地方を統一した戦国大名・毛利元就が吉田郡山城の築城の際に、人柱に代えて埋めた大石に刻んだ言葉だ。1日1日を一人一人が力を合わせて、心を一つに協同一致して事を行うという意味で、第13旅団のスローガンとなっている。

隊員たちは安佐北区スポーツセンターの体育館で寝泊まりをしている。その体育館には自衛隊を応援する寄せ書きが書かれていた。

「私の友達をすくってくれてありがとう」という子どもの文字から、「S(昭和)47県北で、95年神戸で私は2度も助けていただきました」というものも。

陸自が開設しているツイッターには、被災者以外からも自衛隊への激励コメントが殺到している。特筆すべきは、東日本大震災、阪神・淡路大震災、新潟中越地震の被災者からのエールが目立つことだ。

前出の田中1尉が、こうつぶやいた。

「本当は、我々が活躍しなければならない状況は、少ないほうがいいんです」

事に臨んでは危険を顧みずそう宣誓した23万自衛官は、このたびの広島土砂災害でも、その言葉どおりに奮闘していた。

(現地取材/菊池雅之)

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