山形県村山地方・庄内地方に広がる出羽三山(でわさんざん)、「月山」「羽黒山」「湯殿山」は、古来から修験道を中心とした山岳信仰の場として、多くの参拝者を集めていた。
その中でも、真言宗の最神秘の霊場として別格とされていた「湯殿山」は、江戸時代初期に出羽三山信仰が盛んになると『湯殿山だけに登って拝めば、三山を拝んだのと同じご利益がある』と言われるようになり、多くの信者を獲得して急成長を遂げた。
これに危機感を覚えた「羽黒山」派は、徳川将軍家の庇護を受けるために、将軍家に保護されていた比叡山延暦寺にあやかり、「月山」とともに天台宗に改宗した。
幕府権力と結びついたことで勢力拡大を目指した「羽黒山」派は、「湯殿山」派を支配下にするため、『湯殿山は羽黒山の末寺(まつじ、本山の支配下にある寺院のことを指す)である』との訴訟を幕府に繰り返し行う。
これに対し「湯殿山」派は『当山は即身成仏した空海が開山した真言宗である(から天台宗の末寺ではない)』との反論を展開。その主張を裏付けるために、実際に即身仏を生みだす必要に迫られ、1683年(天和3年)に本明寺の僧、本明海上人が厳しい修行の末、即身仏になったのではないかという説もあるらしいのだ。

信者獲得、宗派間の格付けなど、本来の信仰、修行とはかけ離れた、権力争いで即身仏が始まったとは、あの有り難いお姿からは想像もできないのではないだろうか。

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