筆者は主婦歴10年になるが、野菜炒め はたぶん10回も作ったことがない。そもそも料理が苦手で、基本すらあやしい。20代で一人暮らしを始めて、自炊するようになったが、最初は「味付け」を知らなくて「私の作った料理は味がしないな」と不思議に思っていた。そこで愛用するようになったのが『クッ○ドゥ』。混ぜるだけでお家で本格中華が楽しめる、合わせ調味料のアレである。しかし、そのクッ○ドゥで作った野菜炒め すら「美味しくない」と不評だった。野菜はぐにゃぐにゃ、汁がビシャビシャ。販売元の味◯素を問いただしたくなるほどのまずさ。毎回その調子で、とうとう我が家の献立から野菜炒め は消えた。

いま、主婦の間では料理研究家・水島弘史氏が提唱する「科学的調理法」が話題である。「強火で一気に」と思われていた野菜炒め を水島流では「弱火で長時間かけて」作る。常識のどんでん返し的調理法だ。なんでも野菜のペクチンは熱に弱く、強火で炒めるとペクチンの壁が壊れ、野菜の水分がしみ出してしまう。だから、弱火でゆっくり加熱することが大事なんだとか。強火を使っていいのは、強い火力の業務用コンロ、中華鍋、そして常に鍋をあおれる腕を持っている人だけ。家庭用コンロの五徳は低くて火と鍋の距離が近いため、食材を急速に加熱してしまうからだ。水島流レシピは家庭のコンロでは「弱火」、もしくは「弱めの中火」が鉄則だ。

野菜炒め はベチャベチャの汁だくが当たり前、自分のようなメシマズ主婦でも水島流なら「おいしい野菜炒め 」ができるという。ならば、と作ってみた。

●材料
豚肩ロース……60g(一度も冷凍されていないもの)
にんじん……60g
キャベツ……60g
ピーマン……20g
パプリカ……20g
もやし……120g
きくらげ……30g
塩……3.2g
コショウ・サラダオイル・ごま油……適量

塩3.2gの多さにギョッとしたが、水島流は「塩加減」もポイントだ。塩は素材の重量の0.8%を使うのが基本ルールで、これは人間の体液の塩分濃度とほぼ同じ。本能的に美味しいと感じる割合なんだそうだ。ほほー。

1:まずは豚肩ロースを焼いていく。フライパンにサラダオイルを少量ひき、弱い中火で豚肉を加熱。色が変わったらキッチンペーパーの上に引き上げる。

2:次は野菜だ。熱してないフライパンに全ての野菜を入れ、火をつける前にサラダオイルを回しかける。油を野菜に直接かけるのは、表面をコーディングすることで旨味を逃がさないためである。ここ、重要だ。

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3:そして、フライパンをコンロから外し、点火し弱火を作る。真横から見て、炎の先端が鍋底にまったく当たらない状態が弱火である。フライパンの底に一筋でも炎をついたら、そこから焦げるので注意すること。

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4:炒め始めたら、2、3分おきに野菜の上下をひっくり返し、8分程度炒める。

5:にんじんがやわらかくなったら、1の豚肉を入れ、塩・コショウで味付け。最後にごま油で20秒「中火」で炒める。

これで、できあがりなのだが、なんだろう、想像していたよりスゴイ「楽」! 2、3分おきにひっくり返すだけなので、その間に洗い物もできるし、自分なんてトイレにも行った。普段の料理は速さが勝負、とつい焦ってしまうが、この料理法なら野菜炒め を作ってる間にもう一品こしらえることもでき、なんだか「できる主婦」に昇格したような気さえした。
見た目もいつもとは段違い。なんと汁がまったくでていない! 水浸しじゃない。ご飯にかける汁がない。おおー、これが弱火の奇跡か。と感心してやおら実食。

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……シャキシャキ! 歯ごたえがシャキシャキですよ! しかも美味い! グルメ番組のタレントじゃないけれど、思わず「うまっ!」とか芸のないコメントが漏れてしまう。それぐらい美味い。なんてったって塩加減が絶妙だ(これもテレビのコメント風だ)。体液と同じ塩分濃度とかオカルトっすか~? とか一瞬でも疑ってごめんなさい! 汚れちまっててごめんなさい! 数時間前の自分も時空を超えて土下座するほのどナイスな塩加減。……「おいしい野菜炒め 」ができました。私にも。

しかもこの「科学的調理法」の野菜炒め、家族にも好評だった。保育園の給食でしか野菜を食べない子供も、パクパク完食。野菜嫌いと思いこんでいたが、お母さんの料理がまずかったんだね! ごめんね! クッ○ドゥに罪はなかった。

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