酔っ払って家を締め出されて…
結婚していた頃のこと、酒を飲むと夜11時頃、そろそろ家路につかなくてはいけない時間に、酔っていい心持ちになることがあった。
すると、家に帰らなくてもいいような自由な気分になる。結局、深夜、タクシーで帰宅することに。
ところが、その頃には酔いもさめ、さっきまでの自由な気分はどこへやら。家に着く頃にはすっかり心細い気分になっている。
鍵はもちろん持っているが、そんなときにはたいていドアにチェーンがかかっていた。
そこで、家のチャイムを鳴らすわけだが、中にいる女性は寝入っているのか反応がない。
といって、近所の手前、何度もチャイムを鳴らすわけにいかず、ドアを手で軽くトントンと叩く。そして、その勢いは徐々に弱まり、ついには指先だけで弱々しくトントントンと弾くことに……。
男のエゴが生んだ情けない一幕だが、この「指先でのトントン」が昭和の文豪・山本周五郎の短編に登場していたのには驚いた。