一向に絶える気配のない、生活保護や年金の不正受給。この5月には、死亡した両親が生存していると装い年金を約50年間にわたり5000万円不正受給したとして、岐阜県在住の86歳無職の女性が詐欺などの容疑で逮捕された。

事件の背景には、制度の穴が挙げられる。年金を管理する日本年金機構は加入者の死亡者情報を持っておらず、生存の確認は「現況届」で行われる仕組み。年金受給者の99%以上は住基ネットで情報が共有されているので生死はわかるが、0.4%にあたる約14万人については、年一度提出する現況届に生存の記載があれば、年金は支払われるというのだ。

容疑者の親は110歳を超える年齢なので、いくらなんでも怪しいと思うところだが、制度の欠陥を突くことで、見事(?)半世紀に及ぶ不正受給を成功させたのだ。しかも、大半は7年の公訴時効が成立している。

ところが今年10月以降は、こういった犯罪は激減するだろう。
というのも、「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)」が始まるからだ。

これは、生まれたての赤ん坊から高齢者まで、住民票持つ国民一人ひとりに、一生変わることのない12ケタの個人番号を付するというもの。社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理して、複数機関に存在する個人情報が同一人物の情報であることを確認するなど、法律や条例で定められた行政手続きに使用される。

マイナンバーのメリットは、大きく次の3つだ。

1)公平・公正な社会の実現
所得や年金など他の行政サービスの受給状況が把握しやすくなり、負担を不当に免れることや不正受給を防止するとともに、本当に困っている人にきめ細やかなサポートが可能になる。

2)行政の効率化
行政機関や地方公共団体などで、様々な情報の照合、転記、入力などに要している時間や労力を削減。複数業務間での連携が進み、作業の重複も避けられ、公務員の人件費カットにもつながる。

3)国民の利便性の向上
添付書類の削減など、行政手続きが簡素化され国民負担が軽減。行政機関が持っている自分の情報を確認したり、行政機関から様々なサービスの知らせも受け取れる。例えば引っ越しの際、マイナンバーを使えば保険や年金の一貫変更が可能に。


一方で、デメリットがないわけでもない。

マイナンバーは番号が漏えいし、不正に使われる恐れがある場合を除き一生変更されず、12ケタの番号で収入や支出が管理される。プライバシーの観点からは国に監視されているようで気味が悪い。
個人のお金の流れが丸裸になるので、これまでは黙認されていた親子間のお金のやり取りに対しても贈与税が課せられるなど「遊び」がなくなってしまうことも懸念される。

また、マイナンバーは情報の宝庫。流出して悪用される危険も生じる。政府はセキュリティ対策を万全と述べているが、近年は大手企業でも個人情報の漏えいがしばしば。やはり心配というものだ。

気になる今後の流れだが……今年10月には紙製のカードに氏名や住所、生年月日、性別、マイナンバーが記載された「通知カード」が住民票記載住所に到着。

社会保障、税、災害対策の行政手続きでマイナンバーが必要になるが、申請者には行政手続きなど様々なことに利用できる写真入りの「個人番号カード」が交付される(2016年1月以降)。さらに将来は、銀行の新規口座開設時はマイナンバーと紐づけされるなど民間企業での利用も拡大する方針だ。

メリット・デメリットが共存するこの制度だが、施行は決定事項なので受け入れざるを得ない。大事なのは、必要時以外は他人に決して番号を教えない、カードを持ち歩ないなど、しっかり管理しておくことだ。

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