人生に役立つ勝負師の作法 武豊
エイシンヒカリとともに秋の盾へ


――この壁を乗り越えることができたら。

仕事にも、恋愛にも、遊びにも、もうひとつ上のレベルに到達しようと思ったら、目の前に高くそびえる壁をよじ登らなければいけません。ごく稀に、乗り越えるのではなく、すべてぶち壊して進んでいくという人もいますが(笑)。

映画を見て、一緒に食事をして、お酒を飲んで……トン、トン、トンと驚くほどスームズに運ぶことも、なくはありませんが、いつもいつも、思い通りにいくほど、世の中、甘くはありません。

ゴルフクラブを揃え、練習場に通い、コースに出る。ここまでは楽しいだけですが、いざ、コースに出て、目標とする数字を切ろうと思ったら、そこには大きな、大きな壁が立ちはだかります。

競馬も同じ……いや、さらに、ハードルは高いと言ってもいいでしょう。見ている方には、いとも簡単に勝っているように見えるかもしれませんが、そこに到達するまでには、その馬に携わるホースマンすべての方の努力と、確かな技術、強い馬作りに賭ける情熱が込められているのです。

JRA重賞301勝目を挙げたパートナー、エイシンヒカリとの勝利も内容の濃いレースでした。GⅡ「毎日王冠」までの成績は8戦して7勝。前走で、GⅢ「エプソムC」を制し、わずかの差ながら、当日は1番人気に推されました。

出走13頭すべてが重賞ウイナーというメンバーが揃った"スーパーGⅡ〞。もしここを強い競馬で勝つようなら……。そう思い、実際、強い競馬で勝つことが出来ました。

ただ、でも、しかし。次の大目標、「天皇賞・秋」でも同じように勝てるかと問われたら、それほど簡単ではありません。距離、メンバーを考えると、壁はさらに高くなり、エイシンヒカリと僕のコンビも、さらに一段、パワーアップする必要があります。

壁は高ければ高いほど、乗り越えたときの喜びも大きくなります。怯まず、諦めず、――全力でエイシンヒカリの競馬に専心することで、一番高い壁を見事に乗り越えたいと思います。

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