2011年に発災した東日本大震災は、東北地方に甚大な被害をもたらしました。その生々しい傷跡は、5年が経った今も各地に残り、復興はまだまだ、道半ばです。この震災によって、福島競馬場もまた深刻な被害を蒙りました。スタンドの天井や壁が崩落、パドックには割れたガラスが飛び散り、馬券の発売やレースを管理するコンピュータも故障し、競馬開催の中止を余儀なくされてしまったのです。

 震災から8日後、阪神と小倉で競馬が再開されると聞いたときは、正直、こんなときに競馬をやっていいのかと、心が揺れました。それを救ってくれたのがレース後に行った、全騎手が参加したチャリティサイン会です。

「金返せ!」
「このヘタクソ‼」

 いつもは強烈な野次を飛ばすオジサンたちが、「みんなで被災地を応援しましょう」と声をかけてくれ、力強く手を握ってくれました。

 「これ!」

 大事そうに、両手で抱えた貯金箱を小さなお子さんに差し出されたときは、ちょっと言葉にならないほど心が震えました。今まで感じたことのない競馬ファンとの一体感――競馬に携わっていてよかった。ジョッキーでよかった。そんな瞬間でした。

 福島競馬場が再開されたのは、それから約1年後の12年4月7日です。ターフビジョン横の広場で、復興を祈念したシダレザクラの植樹を行い、21日には、5年9か月ぶりに福島競馬に参戦。このときの成績は10回騎乗して、1着1回、2着2回、3着1回。あまり褒められた数字ではありませんが、あのときばかりは、「豊ーッこのやろう。金返せーッ!」というヤジも、なんだか、うれしかったのを覚えています。

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