「闇ウェブの世界」あなたの知らないインターネットの最深階層

「いやあ、もう本当に……最近は何をどう追跡すればいいのか、分からない事案ばかりですよ」 北関東の県警に勤める40代後半の捜査員は、半ば諦め顔で話す。彼が担当しているのはサイバー犯罪。海外への不正送金やセキュリティの穴を突いたハッキング、詐欺グループの通信を解析しての追跡など成果を挙げてきた。だが、そんな彼にも、ここ数年、とみに頭を悩ませている問題があるという。「“闇(ダーク)ウェブ”で行われる犯罪行為が増加、複雑化しているんですよ」(前同)

 闇ウェブとは、聞きなれない名前だが――。「実は、インターネットの空間は三つに分かれているんです。一つは、検索すれば引っかかり、誰でも見ることのできる“サーフィス(表面の)ウェブ”。もう一つは、検索エンジンに引っかからないようプログラムにタグ(暗号)を埋め込み、より機密的な情報を扱っている“ディープ(深層)ウェブ”です」(セキュリティ企業社員)

 ここには、学術論文の集積や、企業の機密情報といったデータベースを暗号化したものなど、一般の人が安易に見ても分からないものも多いが、個人のプライベートページや、同好の士がコッソリ集まって運営する趣味の掲示板などもある。「実は、インターネットの90%を占めると言っても過言ではないのが、このディープウェブ。ほとんどのページは“URLを知らないと、たどり着けない”世界なんです」(前同)

 そして、その奥底――光も届かないほどのインターネットの最深部にあるのが“闇ウェブ”だ。「たとえば、グーグルなどの検索エンジンは、犯罪を助長するサイトなどを常時監視し、検索結果から削除しています。ディープウェブは、サーフィスウェブと違って、そういう取締りをする者がいない。そこにウイルス感染や詐欺を目的としたサイト、ハッカー同士の交流場、ヤバいものの取引サイトなどもできてくる。そうした危険なものが、闇ウェブなんです」(同)

 こうしたサイトは、一般人がアクセスするのは不可能に近い。強固な暗号技術に守られているからだ。「通常、ウェブサイトにアクセスしたり、メールを送信したりすると、サーバーにアクセス元のIPアドレスが残ります。これをもとに“誰がアクセスしたのか?”“誰がメールを送信したのか?”を特定できるわけですが、何重にも暗号化してさまざまなサーバをリレーすることで、そういった情報を残さず、匿名で通信を行える『トーア』という専用のシステムがあります。闇ウェブには、これを操れる人間でなければ、たどり着けないんですよ」(同)

 こうしたサイトには、一般的なウェブサイトに用いられる「.com」などのドメインもつかない。まさに、特殊な世界なのだ。

■薬物やウイルス、クレジットカード情報をネット通販

 記録にもデータにも残らない、闇の世界――。当初は独裁政権に抵抗する政治犯や迫害を逃れたいジャーナリストなどの隠れ家になっていたが、現在では、そこに闇商人たちが群がっているのだという。冒頭の捜査員を悩ませていたのは、ここで起こる犯罪の増加だったのだ。だが、実際、どんなことが行われているのだろうか。「有名なのは『恐怖の海賊ロバーツ(DPR)』と名乗る運営者が開設した“闇のアマゾン”です。非合法なモノなら、なんでも手に入る『シルクロード』という闇ウェブのことで、薬物からウイルスプログラム、海賊版コンテンツ、盗まれたアカウントやクレジットカードの情報なども“ネット通販”。2011年の開設から13年にFBIによってDPRが逮捕されるまで、約95万7000人の会員がいました。彼には、15年に終身刑の判決が下っています」(在米ジャーナリスト)

 当然、この「シルクロード」も閉鎖……されたと思いきや、同じようなサイトが即時立ち上がり、さらに増殖。捜査関係者も、そのスピードに追いつききれないのが現状だという。「『シルクロード』一つでもサーバーへのアクセスに1年以上かかったのに、こんな分の悪いイタチごっこはありません。闇ウェブはその数とバリエーションを増すばかりですよ」(前同)

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