■来年のオリンピックに向けて
泉谷 最近は、中高年の引きこもりが何十万人もいるっていうけど、アレは、そういう社会が影響しているのかもな。自由に生きられなかった男たちが、居場所を無理矢理にでも得るためみたいな。
井筒 きっと、みんな、いろんなことをガマンして必死こいて働いてきたりして、疲れてしまった結果ですよ。いわば引きこもった部屋は“社会に対抗する砦”なんじゃないかと思います。
泉谷 社会に対抗、うん、そうかもしれないな。そもそも、今の社会ってのは、なんでも便利で情報があふれすぎて、むしろ疲れちまうってのはあるよな。
井筒 その通り! しげるさんの曲の『春夏秋冬』じゃないけど、本当に今の日本じゃ季節なんて、どこにもない。加湿器とエアコンのある部屋にずっといたりして、季節なんか感じられない。それじゃ体も心も、どんどんおかしくなっていきますよ。日本はちょうど55年前の東京オリンピックの頃からそんな国になってしまった気がします。
泉谷 そういう時代だったから『春夏秋冬』ができたんだよ。まあ、実際のところ締め切り前に慌てて作った曲ではあるんだけどよ(笑)。「もうスタジオ取ってあるから、早く作ってくれ」って言われて。
井筒 ハハハ。でも、当時から現代を通じて、あのくらい時代を表している曲はないですよ。だからこそ、僕の最新作の映画にも使わせていただいたわけで。
泉谷 でも、ホント、昭和から今まで、変わらないどころか、どんどん世の中は便利さを求めて、おかしな方向へ行ってるからなあ。
井筒 前の東京五輪のときには、新幹線ができた。最近のニュースでは、新幹線の速度が、来年のオリンピックに向けて上がって5分だか10分だか時間が短縮されるって。でも、そんな何分か速くなったからって……。田舎が取り残されるだけ。
泉谷 意味ねえよ! 世の中、多少不便なほうが、いろいろアイデアも出るし、健康になるってもんだよ。
井筒 やっぱり、人間は自然の中を立って歩いて、季節を感じてこそですよ。今度のカネ喰い五輪も、どんな負の遺産になるか知ったこっちゃないが、自然をぶっ壊したり、便利さばっかり追い求めたりしていたらロクなことにはならない。
泉谷 “不便を生きる”、それが令和って新しい時代に必要なものかもしれないな。
いずみや・しげる1948年、青森県生まれ。71年デビュー。72年『春夏秋冬』が大ヒット。79年に初主演ドラマ『戦後最大の誘拐・吉展ちゃん事件』で芸術最優秀賞を受賞。以後、俳優としても活躍。最新アルバム『ステル/栄光か破滅か』は5月11日発売。
いづつ・かずゆき 1952年、奈良県生まれ。75年にピンク映画の監督としてデビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を皮切りに多数の映画賞受賞。日本映画界屈指の名監督。テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍。