松坂桃李
松坂桃李

 今、30代男性の役者の中で、最も注目を集めている俳優の1人が松坂桃李だ。松坂は2018年公開の映画『孤狼の血』の若手刑事役で各映画賞を総なめにし、第43回日本アカデミー賞では『新聞記者』で見事、最優秀主演男優賞に輝いた。しかも彼が面白いのは、「ちょっとヤケッパチになってない?」と心配するような、ナナメ上の作品チョイスから現在にたどり着いているところだ。

 そんな彼の“自ら選んだ実力派へのいばら道”のターニングポイント的映画作品が、ちょうど現在、Amazonプライムビデオで無料配信されていて、これが興味深い。

 まず、本人が「オレなにしているんだろう」状態で演じているのが、2012年に公開された武井咲主演の『今日、恋を始めます』だ。チャラ男と金髪がハマっていなさすぎて、逆にすがすがしい! 同年の『ツナグ』は、彼の静かで今ひとつはじけきれない部分と、黄泉の世界へのつなぎ役、という役柄がリンクしていてとても良かった。

 しかし、彼が本当の意味で自分の長所を活用し始めたのは、15年あたりからではないかと思う。『エイプリルフールズ』のクズ男ぐらいから、がぜん面白くなってきた感がある。同年公開の『彼女がその名を知らない鳥たち』のクズっぷりは、主演の蒼井優が絶賛するほど。そしてトドメが8割濡れ場という『娼年』!

 これらの作品を一気に見て、松坂桃李の生命力の抑え感に萌えた。どんなにモテる役を演じていても、あふれ出るコンプレックスに押しつぶされそうな「目が死んだ美男」ぶりが、すさまじい。とても大きい黒目になにも映っていない、空虚な感じが素晴らしい! レクター博士的な分かりやすいサイコパスとはまた違う「隣の異常さん」ができる、数少ない人なのだと思う。

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