■怒りや悲しみの表現が全身から伝わってくる芝居にくぎ付け
遺族が控える待合室で、佐藤は窓際の壁に向かって拳を2度叩きつけ「どうして絵里がこんな目に遭わなきゃいけねーんだよ」とつぶやく。激しく叩くでもない、感情を抑えているような、壁に悔しさを押し付けるような叩き方だ。顔は見えないが、怒りや悔しさを表現しているのがよく分かるし、何よりその背中だ。たくましく広い背中が、悲しみに震えて丸くなっているのが、悲しみをより強く感じさせた。
そして、加害者・佐々木拓郎の母親が遺族控室に入ってきたシーン。憔悴した様子で椅子に座っていた佐藤だが、入室してきたのが佐々木の母親と知るやいなや、飛びかかるように突進していく。
「あんたの息子のせいで絵里が死んだんだぞ!おい!どうしてくれんだよ、もう絵里はかえってこないんだぞ!おい!おおい!絵里を返せよ!おい!絵里を、かえ………返せよ!待てよ!おおい!」
警備員に抑えられながらも、感情を爆発させる佐藤の左手薬指には、光る指輪が見える。顔から首から全身を赤く染め、喉が枯れるほどに叫び、両肩はシャツに汗染みが出るほどビッショリと濡れている。見ているだけでもらい泣きしてしまうくらいに、切実で悲痛な想いが伝わってきた。
これほどの熱い芝居をするには、どれほどの準備をしてきたのだろう。妻・絵里22歳、若いふたりだから大恋愛の末に結婚したのだろうか………愛する絵里を背後から触る男を許すことなんてできないし、絵里は亡くなってしまったなんて冷静でいられるはずがないだろう………。そんな背後を想像させてしまうくらいに見事な芝居だったし、与えられた役を掘り下げて『佐藤祐樹』という役を演じきっていた。
松田はゲスト出演になるので、このドラマでの出演はここまでになるが、これをきっかけにドラマや映画など映像の舞台で活躍することを期待したい。
(文・青石 爽)