■関水渚との絶妙なバランス
香取の立ち位置の成功にひと役買っているのが、ヒロイン碓氷咲良役の関水渚。彼女も、香取とはまた違った重い存在感のあるタイプである。『キワドい2人-K2-池袋署刑事課 神崎・黒木』(TBS系)でもかなりウザったい性格のヒロインを演じていたが、イラッと来ない花というか、味わいがある。今後、碓氷という「フットワークが軽い正義感」という王道キャラクターに乗ることでどう魅力が花開いていくか、とても楽しみである。
静の香取、動の関水が追う不思議なバランス感が『アノニマス』の魅力だが、なによりの見どころは「身近にある恐怖感」だ。現実に起こった過去のネット事件を彷彿とさせるエピソードに、決して他人事ではない、と背中が寒くなる。
万丞の決めゼリフ「考えろ」が、よりその思いを強くさせる。情報に踊らされては終わり。2019年の『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)然り、時代の節目に今近づいている危機とはこんな大変なものだ、と提示してくるドラマがある。コロナ禍でさらに加速していくネット社会への「警告」が詰まった、今クール、最も考えさせられる一本だ。(田中稲)