■「データだけを眺めていても、良いものは生まれません」
それから私は20年以上、演劇と下北沢の街を見てきました。現在、再開発で下北沢の象徴だった駅前マーケットが消えて、小田急線が地下に潜り、この間まで住宅だったところが古着屋になっています。
さらに今はコロナ禍で、演劇界も、芝居の後に一杯飲む店も、みんな非常に苦しい状況です。
しかし、状況が変わっても、下北沢という街は生きています。商いをしている人たち、住んでいる人たち、演劇人、音楽関係の人たちがこの街を忘れない限り、下北沢は故郷のように、みんなを包み込んでくれると信じています。
私のこれからの目標は、誰もが気軽に演劇を楽しんでいただけるようになることです。
たとえば、聴覚障がいの方から、「演劇に行ってみたいけど、観に行ける公演がほとんどない」という声をいただくことがあります。だから耳の不自由な方でも楽しめるよう、字幕や手話通訳がある公演ができないかを考えていますし、他にも子どもたちが、子ども向けではない演劇に触れられる機会も作ってみたい。少し前からそんな取り組みを始めています。 こんな時代ではあるけれど、劇場運営に限らず、大事なのは「人と人との対話」だと思っています。
データだけを眺めていても、良いものは生まれません。ちゃんと対話して、劇場にとっても、劇団にとっても、そしてお客さまにとっても、より良い演劇を作り出していけたらと思っています。
本多愼一郎(ほんだ・しんいちろう)
1975年生まれ。東京都出身。劇団青年座研究所にて演技を学んだ後、桐朋学園演劇科を経て、本多劇場グループに入社。現在は総支配人として、“小劇場演劇の聖地”と呼ばれる本多劇場をはじめ、8つの劇場を束ねる。また、劇場設備や運営に関するアドバイザーとしての顔も持つ。
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