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安倍首相が強行する「農協解体」キナ臭舞台裏

[週刊大衆03月02日]

わが国の農業を支えてきたとされる"巨大組織"農協にメスを入れた政府。世紀の愚策か、歓迎すべき快挙か!?

さる9日、政府は全国農業協同組合中央会(JA全中)の猛反対を押し切り、アベノミクス"第三の矢の柱"として、農協改革の断行を決定した。"岩盤規制"と呼ばれ、強固に守られてきた農協グループに、歴代政権として初めてメスを入れた格好だ。

改革の骨子は、JA全中の権限を縮小すること。JA全中は全国にある農協の頂点に君臨する中央組織「全農」の最高意思決定機関で、地方の農協から賦課(ふか)金を集め、各農協への指導監督にあたってきた。同時に、強力な政界工作も行ってきたことで知られる。
「農家票を取りまとめ、同時に、農協から"上納"させる賦課金でロビー活動を展開してきたんです。農林族と呼ばれる議員の多くが、その影響下にあると思われます」(全国紙政治部記者)

自民党の農林族議員の一人は、こう打ち明ける。
「全中は農業組織のピラミッドの頂点ですが、政府は、全中が下部組織である全国津々浦々の農協を監査する権限を取り上げたんです。政府は今回の改革で、まず全中の"政治力"を弱めたあと、必ず次の一手を繰り出してきます。本丸は農協"改革"ではなく"解体"。一部では、解体までの行程表が出回っていますからね」

自民党は一昨年の9月から、農協改革に向けた党内論議を開始、昨年5月には、政府の規制改革会議が農協改革について提言している。
以来、改革派VS 農林族議員・JA側に、熾烈な主導権争いが勃発。今年の1月末には、農協改革の具体的な法案検討のためのチームが自民党内で結成され、水面下でJA側との交渉が始まるや、蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。

ただ、安倍首相は党幹部に「全中が反発しようと、絶対に譲歩するな」と檄を飛ばしていたという。農協とは縁のない一般の国民には「政府による"農民イジメ"」にも映る今回の騒動。政府はいったい、何をしようとしているのか?

「ズバリ、"兼業農家潰し"です。彼らに農業をやめさせ、土地を吐き出させることが政府の狙い。そうして、主業農家(専業農家)に土地を集約し、アメリカのような大規模農業に移行させようとしているんです」(全農関係者)

それだけにとどまらない。
「加えて、各種企業の農業への新規参入を促そうとしています。主業農家が兼業農家から土地を集め、大規模農業を実施するならまだしも、そこに利益最優先の企業論理が持ち込まれたらどうなるか? 安全性は度外視され、農地が荒廃するかもしれませんよ」(前同)

そうなっては一大事である。しかし、政府の農協改革はさらに続くという。
JA関係者が口を揃える政府の"次の一手"は、「(1)農家でない准組合員の利用規制、(2)JA全農(全国農業協同組合連合会)の株式会社化」――とか。
いずれも、今回の改革では見送られた案件だ。しかしなぜ、この案件が農協解体につながるのか。

まず、農家でない組合員(准組合員)というのは、JAバンクやJA共済を利用する人たちのこと。彼らが農協に預金したり保険金を支払うことに、制限をかけようとしているのだ。東京大学大学院(農学生命科学研究科)の鈴木宣弘(のぶひろ)教授が解説する。
「現在の農協は、JAバンクやJA共済などの信用事業なくしては、経営は立ち行かなくなっています。つまり、政府は准組合員を農協から引き離すことで、農協の経営が立ち行かなくなるように仕向け、解体しようとしているんです」
首尾よく農協を解体したら、兼業農家が政府のターゲットになるという。

一方、JA全農は、農家からコメなどの農産物を一手に買い入れ、農機や肥料などを農家に共同販売する中央組織だ。
「そのJA全農が株式会社化されたら、独禁法(独占禁止法)の適用除外が受けられなくなる可能性があります。これまで、零細農家は、全農という巨大組織を通じて販売交渉力を持つことができました。しかし、独禁法の適用を受けたら、それができなくなる。そうなると、巨大な小売企業などに、生産した農産物を買い叩かれかねません。つまり、現状の農協改革は農家の販売力を強化するのではなく、販売力を削ぐ結果になってしまうわけです」(前出・鈴木教授)

こうして、兼業農家がたまらず農家を廃業し、土地を吐き出すことになるというのが政府の描く青写真。
ただ、全農の株式会社化には、兼業農家のみならず、主業農家からも不満の声が上がっているという。
「農業機械や肥料の共同購入も独禁法に触れるという話になったら、JAグループの販売交渉力が弱まる。競争原理が上手く機能しなければ、結果として、農家は今よりも高い資材を買う羽目になってしまいますよ」(農協組合員)

この問題に対し、全農に質問してみると、「まだ法案が具体的には示されていないので、コメントは差し控えたい」(広報部)との回答。

とはいえ、コメの生産コストが上がれば、米価の暴騰という事態を招く恐れがあるだけに、消費者としては見過ごせない。
「今の米価水準で、とうてい農家の経営は成り立ちません。安倍首相は農業所得倍増計画を掲げていますが、それはあくまで、規制緩和によって大規模農業に新規参入した巨大企業の所得が増えるという意味。決して農家の所得が倍になるという意味ではありません」(鈴木教授)

何やら"農協改悪"のようにも思えてくるが、40代の現役農水官僚は、「政府が進める農協改革は、日本の農業がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に、対抗できる唯一の手段」だと断言する。
「現在の小規模農業を続けていては、安い輸入米にコスト面で太刀打ちできません。ただし、農協改革や農業改革が進み、大規模農業が主流となれば、品質はそのままにコメの価格は引き下げることが十分可能です。価格が下がったうえ、安全でおいしければ、輸入米にも十分対抗できます」

世界一の日本のコメが今より安く食べられるなら、消費者にとって歓迎すべき話。いずれにせよ、農業は安全保障と同じく国家の重要課題であるだけに、来る"第二幕"の行方を注意深く見守る必要がある。
農業というより金融会社…
実はとっくに農協は崩壊していた!?


日本の農業の発展のために法的にも手厚く守られてきた農協。しかし、その実態は"理想"とはかけ離れたものだとする指摘も!!

「今回のJA全中の地域農協への監査権限廃止は、わが国の農業再生に向けた一歩前進ではあります。しかし、JA全中の下部組織で、都道府県ごとにある都道府県中央会を残したことは問題。これまでどおり、ここを通じて地域農協から賦課金も徴収でき"政治力"を発揮できます」
と、改革はまだまだ緒についたばかりと言うのは、農水省キャリアOBで、『農協解体』(宝島社)などの著書がある山下一仁(かずひと)氏だ。

農協の最高司令部である「JA全中」は、その下に「都道府県地方中央会(47)」、市町村レベルの「総合農協(約700)」を通じて、約1000万人の組合員を指導してきた。農家と直に接する総合農協は、1960年には1万2000以上もあった。それが現在では700程度。なぜ、激減したのか?

山下氏は、信用(銀行)や共済(保険)事業の効率化を図り、合併を繰り返した結果だと言う。
「今や、組合員の6割近くは農業とは無縁な地域住民の准組合員。JAは彼らに向けた住宅や自動車ローン事業などを行っています。JAバンクは今や、わが国で預金量2位のメガバンクですが、農業への融資は、その1~2%に過ぎません」
要するに、農協はとっくに"農業のための組合"ではなくなっているという。

「問題なのは、正組合員の大半が農業だけで生計を立てている主業農家ではなく、兼業農家であること。ですから必然的に、農協はそうした兼業農家の利益団体になってしまっていることです」(農水省関係者)

山下氏によれば、農協がTPPに反対しているのは「国際価格よりも高い米価を維持する」ため。そうしないと、米作を主とした日本農家の7割を占める兼業農家は廃業してしまうだろう。すると、准組合員とともに、主力の預金者である兼業農家の預金が逃げる。
農協の政治力も低下する。
「ですが、兼業農家が廃業すれば、大規模農業が可能になり生産性が向上し、価格が低下し、国際的な競争力がつきます。消費者も利益を受けます。農業の発展を犠牲にして、組織の利益を追求している農協のあり方には、問題があると言わざるをえません」(山下氏)

政府が改革を進める理由も理解できる!?
「統一地方選惨敗」もあるか!?
阿部首相が「危険なかけ」に出た理由


これまで、自民党の強固な支持基盤であった農協。それが一転、不倶戴天の敵になったことで、4月の統一地方選に黄信号が灯った。改革を強行する安倍自民に"勝算"はあるのか!?

「国(地元)に、どう説明したらいいんだ……」
JA全中の"ドン"万歳(ばんざい)章(あきら)会長と自民党幹部が会談し、全中サイドが農協改革を受け入れた8日夜、農林族議員の一人は、こう吐き捨てた。

「安倍政権の号令の下、自民党が農協改革を検討し始めて以降、農協と党の関係は冷え込んでいます。農協票を生命線とする農林族議員にとっては、今回の改革は死活問題なんですよ」(全国紙政治部デスク)

自民党内の改革反対派は、1月27日に国会内で会合を開いている。
「参加したのは全中出身の山田俊男参院議員を中心に30人以上の議員。全中幹部らも顔を出しています。席上、全中側は監査権限が地域農協の自由度を奪っているとの政府の主張を声高に否定しています。さらに、"改革が、なぜ農家の所得向上につながるのか"との批判も出ました」(前同)

これまでの選挙では、地方の農家の多くが、「何があっても自民党」で投票してきたとされる。この大票田を失うリスクを冒してまで、なぜ、安倍首相は改革を急ぐのだろうか。
自民党関係者が言う。
「選挙時のダメージは、昨年末の衆院選でも確認できますし、滋賀、佐賀の県知事選で、うちの推薦候補が敗れた原因でもあります。党内では農協改革は統一地方選後に先延ばしすべきとの声もありましたが、安倍首相の鶴のひと声で押し切られてしまったんです」

その理由は、
「寄る辺を失った全中の一部が民主党政権にすり寄る動きを見せたことに加え、先の衆院選で稲田朋美政調会長らを攻撃したことに、首相が激怒したんです。稲田さんは、首相が近い関係者に"後継者"と明かすほどのお気に入りですからね。首相の側近に農林族がいないことも大きい」

もうひとつ、安倍首相を改革に走らせる理由があるという。
「首相は師である小泉純一郎元首相の郵政民営化を体験しています。党内が真っ二つに割れたにもかかわらず、小泉さんは民営化を強行した。このときの小泉さんに自身を重ねているんですよ」(前出・デスク)

ただし、改革が進むなら選挙で苦戦してもよい……というわけではないらしく、
「改革案は全中の言い分も加味した妥協の産物です。したがって選挙へは、それほど影響しないでしょう。全中側も、本当に重要なのはTPP問題ですから、首相に徹底抗戦して反目することは得策ではないと判断しているはずです」(政治評論家・浅川博忠氏)

安倍首相にしてみれば、"勝算は十分あり"といったところのようだ。

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