日刊大衆TOP 社会

安倍政権は日本をどこへ導くのか!? 平成の安保闘争と「自衛隊の本音」

[週刊大衆06月08日号]

安保関連法案が成立すれば、多様な任務に直面することになる自衛隊。24万自衛官の偽らざる“胸中”とは!?

国論を二分する「安保関連法案」が5月14日、閣議決定された。翌日には国会に提出され、26日から本格的な審議が始まる。
「同法案は、大きく二つに分類されます。一つは、交戦中の他国軍への後方支援を可能とする"国際平和支援法案(新法)"。もう一つが武力攻撃事態法やPKO(国際平和維持活動)協力法など10本の現行法をまとめて改変する"平和安全法制整備法案"です」(自民党国防族議員)

これら法案が成立すれば、自衛隊を国会の事前承認を経て、迅速に紛争地に派遣することが可能となり、さらに、わが国の安全保障上、長年の課題と言われた集団的自衛権の行使が限定つきながら可能となる。
その際、日本と密接な関係にある国が攻撃された場合、政府は"(日本が)存立危機事態"にあるかどうかを判断するという。
「抽象的でわかりにくいですが、要するに、"これは日本が攻撃されたのと同じ深刻な非常事態である"と判断されたら、自衛隊は限定的ではありますが、他国軍と一緒に戦うことが可能となるわけです」(同国防族議員)

安倍晋三首相はこれら11法案を総称して「平和安全法制」と呼び"平和"目的を強調したが、野党側の反発は大きかった。

"安倍嫌い"で知られる社民党の福島瑞穂前党首は、4月の参院予算委で、平和安全法制を"戦争法案"と攻撃してみせた。すると安倍首相は「"戦争法案"などと無責任なレッテルを貼るのではなく、中身ある議論をしたい」と応戦。安保関連法案を巡り、与野党の対立が鮮明になっている。

「この発言を機に、安倍首相の思惑とは逆に与野党激突の構図が鮮明となってしまいました。野党側は、まず法案の名称にクレーム。さらには、10本の改変法案をひとくくりに審議することにも猛反発。国会審議の"入り口"から、大波乱の様相を呈しています」(国会詰め全国紙記者)

安倍首相が敬愛する祖父・岸信介元首相は在任時、日米安保の改定に踏み切り、学生運動ほか、国内で大きな反対運動を招いた。いわゆる「60年安保闘争」である。孫の安倍首相も、今国会での法案成立を目指すが、状況は緊迫しており、さながら、"平成の安保闘争"といった趣すら漂う。
「最大野党の民主党も反対の立場。ただ、同党の野田佳彦前首相も集団的自衛権行使容認が持論でした。民主党には、安保国会を政局にすることは慎んでもらいたい」(前出の国防族議員)

安全保障問題に詳しい軍事ジャーナリストの井上和彦氏が言う。
「野党や一部マスコミは"戦争法"などという表現を用いていますが、これは国民を愚弄していますよ。誰が好き好んで戦争をするんですか。安全保障環境が激変している現在、昔と同じで、国民の安全、財産を守れるわけがありません」

また、現在の"平成の安保闘争"の様相は、自衛隊海外派遣の幕開けとなった、湾岸戦争後のペルシャ湾への機雷掃海部隊派遣時(1991年)に酷似しているという。
「当時、反対する人たちは"自衛隊の海外派遣は軍国主義化の前兆だ"とか"アジア諸国の反発が懸念される"。あげくは"自衛隊が海外に行くと戦争になる"との大合唱でした。ただ、本当にそんなことになりましたかね。PKO派遣で、戦争になりましたか? アジア諸国から嫌われましたか? 現実は、まったく逆です。感謝の嵐で、撤退する際に、地元の有力者から部隊長が"ぜひ、うちの娘を嫁にもらってほしい"と懇願をされたこともあるくらいです」(井上氏)

防衛省関係者が言う。
「タカ派の安倍首相が戦争法を持ち出した(笑)、と報じる向きもありますが、同法制が成立しても原則、武力行使が大きく制限されていることは変わりません。そこで、任務が多様化した現在に対応できるように、武器使用基準を多少緩和するなどの改正を目指しているんです。改正後も武器使用基準は国連の標準以下。"日本の常識は世界の非常識"という状況が多少緩和されるだけです」

前出の井上氏が言う。
「そんな"当たり前のこと"をできるようにするのが、今回提出された法案です。ただ、法案が成立したとしても、まだ不十分。国土、国民を守る自衛隊の活動が大きく制限されていることには、変わりはありません」
真っ先に派遣される精強部隊

それにしても何故、安倍政権は安保法案提出、成立へと前のめりに急ぐのだろうか?
「日本の安全保障環境が大きく変わったからです。たとえば、北朝鮮は核・弾道ミサイルを開発。中国は軍拡一直線で、領土拡張の野心を隠そうともしません。また、極東アジアが緊迫状態にあるというのに、米国は国防費を削減。これまで米国が主導していた極東の秩序維持を、今後は日米共同でやっていく方針に転換したことも大きい」(軍事評論家の神浦元彰氏)

安倍首相もこのことは再三強調しており、
「北朝鮮の数百発もの弾道ミサイルは、日本の大半を射程に入れている。国籍不明機に対する自衛隊機のスクランブル(緊急発進)の回数は、10年前と比べて7倍に増えた。これが現実です。日米同盟が完全に機能することを世界に発信することで抑止力はさらに高まり、日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなります」
と演説している。

とはいえ、法改正に伴い、その活動が広範で多様化する自衛隊の思いは複雑かもしれない。なぜなら、殉職者、あるいは"戦死者"が出る可能性が改正前に比べて大きく高まるからだ。そこで、"安倍安保"を前に、現場自衛官たちの本音を直撃した。
「自分は命令が出たら行きます。それが仕事ですから、政治のことはあまり考えたことがありませんね。そこへ行くと危険だとか、死ぬかもしれないということは考えません。与えられた任務を完遂するのみです。周りの同僚たちも皆、同じ思いだと思いますよ」(20代陸自・普通科連隊員)

一方、30代の海自幹部は、
「隊員が命がけで任務に励むには"大義名分"が不可欠です。"なんで派遣されるんだろう?"とか、"本当に日本のためになるのかな?"と、心が揺れている状態は一番危険だからです」
と、"大義"の重要性を語る。こうした"道理"や"やりがい"の必要性を主張する自衛官は多かった。
「僕らは、お金が欲しいから自衛隊にいるわけではありません。国民のコンセンサスが得られて、"国際社会における日本の役割を果たすため"と説明がきちんとされれば、名誉なことですし、喜んで任務に励みます」(同海自幹部)

40代の陸自幹部は、安保法案が改正されてもまだ不安が残ると指摘する。
「法改正がされても、まだ国際標準ではないので不安があります。改正は"現状よりもまし"という程度。ですから、法改正後、最初に危険地域に派遣されるのは、練度の高い部隊になるでしょうね。おそらく習志野の第一空挺団と特殊作戦群、宇都宮の中央即応連隊が中心でしょう。練度の低い部隊を派遣して、事故や死傷者が出ると政権が吹っ飛びかねませんから」

陸自最精強の呼び声高い第一空挺団や特殊作戦群は、極めて難易度の高いミッションも完遂する能力を持つとされる。
「こうした部隊の士気は極めて高いですね。危険な任務だからといって辞退する者も皆無でしょう。実は、対テロ戦のエキスパート特殊作戦群は、イラクのサマワや南スーダンといった危険地域への派遣時には、必ず随行しています。特戦群の隊員は、現地での不測の事態に備え、一般の隊員に対して、指導を行っていたはずです」(元陸自レンジャー助教)

第一空挺団の隊員の中には、すでに"戦地"に思いを馳せる猛者もいる。
「一般の隊員より、幹部のほうが複雑な気持ちでしょうね。幹部は危機に直面した際、現場指揮官として"部下を殺す非情な覚悟と、部下を生かす最大限の努力"という相反する決断を常に求められていますからね。1名の犠牲で部隊が救えるのなら、その人間に"死んでくれ!"と言わなければならないんです」(20代の空挺団隊員)

自衛隊では部隊ごと、年1回の身上調査があるという。
「アンケートで"海外での活動を希望する/しない/どちらでもよい"を選ばされます。"希望する"と答えた者から選抜されることになります。殉職する可能性があるため、"志願している"ことを派遣の前提にしたいからでしょう」(前出の元レンジャー助教)
PKOは"民間保険"を利用!!

これまでのように、政治家が政争の具として安全保障を弄ぶことなど、生命を賭して職務に邁進する自衛隊員たちにとっては、言語道断の所業なのだ。一般には知られていないが、こんな実例があった。

小泉政権下で、自衛隊がイラクのサマワに派遣されたときのことだ。普通科隊員(歩兵)の輸送に使用する96式装輪装甲車が砂漠の熱波でオーバーヒート。使い物にならなくなっていたというのだ。
「自衛隊の装備は、基本的に日本の気候、風土で威力を発揮するように設計されています。今後、海外で多様化した任務を行うのであれば、さまざまな環境に適合した装備を持つ必要があります」(陸自OB)

一方、不安を口にするのは陸自普通科の3曹だ。
「自衛官は、命令が下れば戦地でも被災地でもどこでも行きます。ただ、はい、喜んで……とは、ちょっと言えません。できれば、子どもが小さいうちは……というのが本音です」

池田整治元陸将補が言う。
「今回の法改正で、自衛官の戦死の確率は高くなりました。なのに、PKO部隊員は(民間)保険で対応しているのが現状。これでは、海外任務に就けと命令されても不安が残りますよ」
自衛隊員が、後顧の憂いなく任務に就くには、残された家族への補償などの法整備も必要という。

法に不備があれば、現場で命を落とすのは、同じ日本国民である自衛官たち。せっかくの安保改正も、"仏作って魂入れず"――の愚だけは、絶対に避けてもらいたいものだ。

この記事が気に入ったら
をしよう

いいね!

@taishujpさんをフォロー

大衆のオススメ


オススメタグ


人気記事ベスト10


日刊大衆公式チャンネル


Copyright(C) 日刊大衆 Futabasha Publishers Ltd. All rights Reserved.