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「マラソン代表」が五輪のたびにモメる理由

[週刊大衆03月21日号]

「マラソン代表」が五輪のたびにモメる理由

 会心の激走を見せる韋駄天娘と、なんとも煮え切らない親父ども。4年に一度はモヤモヤさせられる「あいまい選考」はなぜ起こる!?

 リオ五輪の開幕まで5か月。出場を決めた選手、選考試合を控えた選手、それぞれが勝負を見据えて静かに牙を研いでいる時期に、とんだ騒動が起きた。「1月31日、リオ五輪の代表選考レースの一つである大阪国際女子マラソンで、福士加代子(33)が日本女子歴代7位となる2時間22分17秒の記録を叩きだして優勝しました。オリンピック派遣の基準となる“派遣設定記録”を13秒上回り、本人も“リオ、決定だべ~!”と跳びあがって喜ぶほどの快勝で、誰もが代表入りは確定だと思ったんですが……」(スポーツ紙記者)

 だが翌日の2月1日、福士陣営は3月開催の次の選考レース、名古屋ウィメンズマラソンへの出場検討を表明。所属するワコールの永山忠幸監督が「(日本陸連から)“当確”の言葉がない」と、代表内定の連絡がないことを明かしたのだ。追い打ちのように、6日には陸連の酒井勝充強化副委員長が「(名古屋に)出るな、とは言えない。選考要項ではわずかに落選もありえる」とコメントし、急転直下の落選可能性も示唆。これに、福士サイドは反発。永山監督は「生きるか死ぬかでやっている。攻めるしかない」と、合宿に入ることを宣言した。

 それにしても、派遣設定記録なるものまで存在している以上、それを突破した福士は「明らかに代表に派遣される資格を得た」と思うのが普通だろう。「この設定記録は、前回のロンドン五輪までは存在しなかった制度で、五輪選考レースで突破したのは、福士が第一号。当然、内々定のような通達があるはずだと思いますよね」(前同)

 しかし、福士には何の連絡もなかっただけでなく、落選もありえると言われる始末。福士側の態度が硬化するのも無理はない。しかし、酒井副委員長の言う「選考要項」をよく読むと、当確を出せない理屈も見えてくる。陸連では、リオ代表の選考要項を男女ともに以下の2段階で定めている。【(1)世界陸上競技選手権大会マラソン8位以内入賞者で、日本選手最上位者1名を内定する】(要約) この条件には、昨年の世界陸上北京大会で7位に入った伊藤舞(31)が該当。タイムは2時間29分48秒と今回の福士に大きく遅れるが、代表選考にはこの条件が最優先されるため、伊藤は代表に即内定した。

 この時点で残りは2枠。その枠を、次の条件で争う。【各選考レースにおいて日本人3位以内の競技者から、(2)「日本陸連設定記録を満たした者」(最大1名)→(3)「各大会での記録、順位、タイム差等を勘案し、活躍が期待される者」の優先順位で選考する】(要約) 選考レースは全部で3つ。1つめのレース、さいたま国際マラソンで吉田香織(34)が2時間28分43秒で日本人1位、渋井陽子(37)が同2位に入ったため、名古屋の結果次第で(3)の資格を得る可能性がある。

 福士は大阪で設定記録を上回って優勝し、吉田らより上の(2)の資格を得た。しかし、【最大1名】という注記が最大のミソ。「これは“選考の全過程を通して1名”ということ。つまり、誰かが福士よりいいタイムで名古屋を走ったら、その人が(2)の有資格者に繰り上がり、福士は(3)に落ちる。現状、厳密には決して当確ではないんです」(全国紙スポーツ担当記者) 今後、福士が落選する可能性があるとしたら、名古屋で日本人が少なくとも1位と2位を取り、2人とも福士よりタイムが良かった場合。確かに、可能性は決してゼロではないのだ。

「その場合、名古屋の1位は確実に福士より優先順位が上になります。しかし、要素として“選考会での優勝”も評価するなら、少なくとも名古屋の2位よりは大阪1位の福士が上という考え方もできます。実は、ここでタイムと順位のどちらを優先するという明確な基準がないため、“わずかに落選もありえる”という酒井氏の発言を生んだんです。まあ、実際、この記録を超える選手が、そう簡単に現れるとは思えませんが」(陸上専門誌記者)

 少なくとも、福士以外に優先順位が上の選手が現れる可能性があることは分かるが、前述の(3)の選考基準に明確な優先順位がないとなると、ややこしいことこのうえない。陸連の元副会長・澤木啓祐氏は、古巣を一喝する。「選考基準の考え方について選手に丁寧な説明をしないから、陸連はいつも不信を招くんです。今回も、設定記録のことを本人や監督に丁寧に説明していなかったんでしょう。これじゃ、誰でも混乱しますよ」

 そしてその後、特に双方の話し合いもないまま、21日には麻場一徳強化委員長が「名古屋に出ることは避けてもらいたい」と発言。これを受けて不信感を募らせた福士は25日、正式に名古屋にエントリーした。「それはそうですよね。“内定ライン”だと思っていたタイムが別にそういうことではなく、何の手形ももらえないわけですから。可能性は限りなく低いですが、仮に名古屋で2時間20分で走る日本人女子が2人出たら、自分は落選するかもしれない。だったらもう一度走って、自力で代表の座をもぎ取ると言うしかないですよ」(五輪代表候補にもなった元選手)

 福士への同情と陸連のあいまいな基準への批判が広がる中、27日に陸連の尾縣貢専務理事が「彼女は五輪で戦えるという認識で一致している。(選考ルール上)内定は出せないが、万全の状態で五輪に向かうようにしてほしい」と語り、それまで木で鼻をくくったようだった陸連側の態度に変化が見え始めた。「そして3月1日、福士側が名古屋への不参加を発表。公式に内定通知があったとは聞きませんが、世論や陸連側の軟化、名古屋の出場者などを鑑み、代表入りは確実と見たんでしょう。実際、ここまで批判が高まったら、よほどのことがない限り、陸連は福士を代表に選ばざるをえませんから」(前出のスポーツ紙記者)

 ある意味、福士サイドの粘り勝ちとも言える結末となったのだ。「まだ公式な発表はないとはいえ、ほぼ“当確”と目されています。しかし、今回の騒動で、改めて陸連の不明確な選考方式が問題となりましたね」(前同)

 そう、陸連の不可解な選考は、これまでに何度も波紋や議論を呼んできた。「有名なのは、1992年のバルセロナ五輪女子マラソンの選考。初マラソンの松野明美が大阪国際女子マラソンで当時の日本記録を塗り替えて2位に入ったにもかかわらず、前年の世界陸上4位(日本人2位)でタイムも劣る有森裕子に代表の座をさらわれた。当時の世界陸上の内定ラインは“3位以内”だったうえに、有森がその後の選考レースにも出場せず、“選考基準を何だと思っているのか”“恣意的すぎる”と、批判が相次ぎました」(前出の専門誌記者)

 結果的に、有森が五輪で銀メダルを獲ったことで批判はやんだが、自ら定めた基準を平気で破る陸連の“二枚舌選考”の例は、これだけではなかった。「同じバルセロナでは、男子でも森田修一が選考レースで1位になりながら、他の選考レースの1、2位にタイムで負けて落選。96年のアトランタ五輪の選考レースでも、鈴木博美が大阪で日本人最速タイムを出しながら、2位だったからという理由で落選。ここで選ばれたのは、またも有森でした」(前同)

 問題なのはやはり、その基準となる指標が統一されていないこと。森田の場合はタイム、鈴木は順位が理由とされた。松野のケースに至っては、まったくもって意味不明だ。「伊藤舞がリオ代表に内定した昨年の世界陸上代表を選ぶ際にも、3つの代表選考レースで、ただ一人優勝した田中智美が落選するという事態が起きています。その理由が、あろうことか“序盤のレース運びが消極的だったから”。言うまでもなく、マラソンは結果がすべてです。田中は勝つために、レースの中で駆け引きをしたにすぎない。これでは、勝ちに行くなと言っているようなものですよ」(民放局スポーツ記者)

 確かに、前述の選考基準を改めて見ると、やはり①の基準は順位で、(2)はタイム。(3)に関しては、もう何でもアリで、統一基準など、なきに等しいのだ。「結局、タイムなのか順位なのか、陸連に定見がないから、恣意的な選考がなされてしまうんです。当然、選手の側も、代表になるために何を求められているのか、分からないままトレーニングをすることになる。きわめて非効率です。陸連が曖昧な選考を繰り返すかぎり、五輪や世界大会のたびに無用な混乱が生じ、強化の遅れにもつながりますよ」(JOC関係者)

 加えて、陸連の懐事情もこの曖昧さを生んでいる。「選考レースを1つにしたり、評価をポイント制にしたりすれば、もっと透明性のある選考もできる。ただ、陸連としては、代表の確定を最後まで引っ張って、すべてのレースを注目させないと、スポンサーが集まりませんからね。4年に一度のかき入れ時を逃さないためには、むしろ明確な基準を設けず、なるべく“千秋楽”まで盛り上げたい。その発想がある限り、代表選びでモヤモヤさせられる事態は今後も起こるでしょう」(前出の元選手) いずれにせよ、懸命に走る選手に罪はない。だが、“先導車”のはずの陸連がブレブレでは、選手も安心して走ることなどできはしないのだ。今度こそ、騒動を教訓としてもらいたい。

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