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野村克也「王と長嶋は、正反対のタイプだけど、やっぱり天才だった」己を知る人間力

[週刊大衆2016年12月12日号]

野村克也「王と長嶋は、正反対のタイプだけど、やっぱり天才だった」己を知る人間力

 野球界では、ヤマ張りっていうのは、馬鹿にされている言葉なんです。“あいつはヤマ張りだ”って言うのは、女性に対して“あいつはブスや”って言っているのと同じ。だから、ヤマを張るっていうのは、打者として恥なんだよ。でも、俺は日本一のヤマ張り師だと自負している。

 俺はヤマを張れなければ、打てない。変化球にどう対応するのか、これが打者にとって大きなテーマとしてあるわけだけど、真っ直ぐを狙っていたのに、変化球を投げられたらもう打てない。

 王や長嶋のように、ズバ抜けた運動神経や反射神経を持っていれば、それでも打てるけど、俺はそんな器用じゃないんだと自己分析した。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」

 これは勝負の世界では永遠に基本だね。だから、まず己を知って、ヤマを張る道を選んだ。勘だけでは、長続きしないから、根拠のあるヤマを張る。そのために、対戦ピッチャーのビデオを擦り切れるほど見た。それが、データ野球の始まりだった。

 人間だから、誰しもクセがある。当時、いつも優勝争いしていた阪急の岡村幸司っていうキャッチャーは、フォークのサインを出すと、グローブをふっと開くだとか。当時は、みんなボールの握りを見せていたから、よく観察すれば球種がある程度は、分かったんだよ。でも、オールスターの時に、杉浦忠にみんなバラされちゃった。それで、“最近のバッターはボールの握りまで見ているらしい”ってなって、握りを隠し出したんだよ。今では、当たり前のことだけど、そのルーツは俺。人気がないっていうのは、悲しいよ。誰も“あれは、野村がルーツや”って言ってくれない。

 ピッチャーの癖とかを寝ずに調べあげて、俺なんてようやく年間52本のホームランだよ。小鶴誠さんが持っていた51本の記録を10年ぶりに塗り替えた。これで、10年は持つなと安心していたんだよ。そしたら、次の年に王が55本打っちゃうんだから、たまったもんじゃない。

 王と長嶋は、正反対のタイプだけど、やっぱり天才だった。バッターボックスで、打者の気持ちを揺さぶろうと始めたささやき戦術が一切効かなかったのが、2人だけいるんだけど、それが王と長嶋。

 まず、長嶋は聞いてないんだよ。“最近、銀座行ってんの?”って聞くと、それに対する返事が来ると思うでしょう。長嶋は違うんだよ。“ノムさん、このピッチャーどう?”って。こっちの話を全然聞いてないから会話にならない。王はちゃんと会話になる。“ノムさんは行ってんの?”とか。少しは集中力が切れたかなって思うんだけど、ピッチャーが振りかぶると、その瞬間に隙がなくなる。王の集中力はすごいんだよ。

 プロ野球界にいろいろと貢献したはずなのに、2人がいたから、誰も俺の名前をあげてくれない。人気商売なのに、人気のない人生だった。

 女性にも全然、モテなかったな。女性を口説くのと、野球の攻略法は、長所短所を分析するっていうところだけは似ている。だけど、女性は全然ダメ。分析できない。小学生の頃から、女の子にモテなかった。だから、そういう星の下に生まれていると思って諦めたよ。

 唯一、モテたのが今の奥さん。めちゃくちゃ優しくしてくれた。今は正反対だけど。そうじゃなきゃ、あんな奥さんと結婚してないよ(笑)。

 今回、『野村の遺言』という本を出すため、いままでの野球人生も振り返ってみたけど、よくプロの世界で60年以上もやってこれたなと思う。テスト生として入団して、1年目のオフに一度は解雇を言い渡された。なんとか、この世界で生きていくためにはどうすればいいのか。取りたてて才能に恵まれていなかったから、バットを振るだけでなく、知恵をふり絞って考えるしかなかった。

 考えることが、最大の武器だと思っていた。だからこそ、今の自分がある。“生まれ変わってもキャッチャーをやりたい”。改めてそう思った。

撮影/弦巻 勝

野村克也 のむら・かつや
1935年、京都府生まれ。京都府立峰山高校卒業。南海ホークスにテスト生として入団。3年目から正捕手に。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、ベストナイン19回、MVP5回、ダイヤモンドグラブ賞1回。65年には戦後初の三冠王に輝く。70年に選手兼任監督に就任。73年には、チームをパ・リーグ優勝に導く。80年に現役引退。通算成績2901安打、657本塁打、1988打点、打率2割7分7厘。90年~98年ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回(日本シリーズ優勝3回)。99年~01年阪神タイガース監督。06年~09年東北楽天イーグルス監督。現在は、野球評論家として活動する。野村克也氏の最新著作『野村の遺言』(小学館刊)が発売中

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