日刊大衆TOP 芸能

石川梵(写真家)「人間のために、自然があるわけじゃない」祈りを写し取る人間力

[週刊大衆2017年04月03日号]

石川梵(写真家)「人間のために、自然があるわけじゃない」祈りを写し取る人間力

 カメラマンとして30年以上、写真を撮ってきましたが、一貫してテーマは祈りなんです。

 まだ、駆け出しだった23歳のときに、アフガニスタンに取材に行ったんですが、当時は、ソ連に侵攻されていて戦争状態。アフガンの一部の人たちがゲリラ戦で対抗していて、彼らに密着したんです。

 戦場まで向かう道は、地雷原。危ないからって、10代の青年が僕の前を歩いて、地雷避けになってくれるんですよ。ゲリラ側は、ソ連が我々の国でこんなにひどいことをやっているんだって世界に知ってもらいたいから、ジャーナリストを大事するんでしょうけど、自分の命を犠牲にしてまで守るってすごいじゃないですか。

 彼らを突き動かしているものは何かっていったら、信仰心なんですよ。何か信じるものがなければ、できないと思うんです。彼らは戦場でも、1日5回、お祈りしているし、ラマダンの時期は、戦場でも何も食べないんです。彼らを知るには、信仰を知らなくてはいけない。でも、人の信仰を勉強する前に、自分の国の信仰を知ろうと思って、伊勢神宮の写真を撮るようになったんです。

 今の日本で信仰心を持っている人って少ない。それは、自然が周りにないから。自然と人間を繋ぐものが、信仰や祈りだと思うんです。

 僕は、インドネシアで鯨をモリ一本で獲って生活をしている村を取材していたんです。鯨にモリが刺さると、船ごと水中に引っ張られて、死と隣合わせ。でも、鯨を獲ると、2か月は村民みんなが食っていける。だから、危険を顧みずに、海に出ていくわけです。そんな生活をしていたら、神様を信じますよ。厳しいことも、楽しいことも全部自然が支配しているんですから。彼らは、鯨の頭には魂が宿っていると信じて、頭だけ海に戻すんです。

 日本でも、東日本大震災で自然災害の脅威っていうものを、まざまざと見せつけられた。僕も震災翌日には、ヘリをチャーターして現地に向かったんですが、被災地で、綺麗な朝日が昇っていたのを見たんですよ。でも、周りは水浸しで、たくさんの方が亡くなっている。綺麗に思う自分が腹立たしかったけど、気が付いたんです。人間のために、自然があるわけじゃないってことを。

 そんな経験もあって、ネパールで大地震が起こったときには、動かずにはいられなかった。地震発生から3日後には現地に着きましたね。日本の救援隊と同じタイミングでした。被災地の取材って、スピード勝負なんですよ。1日、2日経つと、死臭が消えている。生々しさがどんどん消えていって、人の様子も変わっていく。だから、地震後すぐに現地に飛んだんです。

 現地からの報道は、首都であるカトマンズからのものばかりだった。本当に被害の大きい山岳地帯の様子はどこも報じていなかったので、2日、歩き続けてラプラックという震源地に近い村に行ったんです。

 通常なら、撮影して終わりなのですが、その村には救援隊も誰もいないので、僕がなんとかしなくてはっていう気持ちが芽生えてきたんです。その村を長いスパンで支援するには、どうしたらいいんだろうって考えた結果、映画にすれば、長期間、村に行けると考えて、今回公開される映画『世界でいちばん美しい村』を撮ることになったんです。

 ただ個人のドキュメンタリー映画というのは、映画ができるまで収入がないんです。驚きました。それだけではなく映画を撮り終えた後も、ものすごくお金も手間もかかる。嫁さんをはじめ本当にいろんな人に助けられながら完成にこぎつけました。

 今回の撮影で学んだのは、本当の幸せとはお金や物じゃないということ。地震ですべてを失っていながら、それでも人々は明るく前向きに生きていた。そこには家族の絆、苦楽をともに分かち合う共同体としての村、大自然と祈りがあった。

 本当の幸せとは何か、というテーマをこれからも映画や写真を通して追い続けていきたいですね。

撮影/弦巻 勝

石川梵 いしかわ・ぼん
1960年生まれ。10代の頃、日本将棋連盟奨励会に在籍し、棋士を目指すが、写真家に転身。AFP通信のカメラマンを経て、90年にフリーの写真家に。93年に『伊勢神宮、遷宮とその秘儀』、98年には、捕鯨の文化が残る村を写した『海人』で、日本写真協会新人賞を受賞。12年には『The Days After 東日本大震災の記憶』で、日本写真協会作家賞を受賞。現在も伊勢神宮の神事をはじめ、祈りをテーマにした撮影を世界各地で行っている。

石川梵(写真家)「人間のために、自然があるわけじゃない」祈りを写し取る人間力

この記事が気に入ったら
をしよう

いいね!

@taishujpさんをフォロー

大衆のオススメ


オススメタグ


人気記事ベスト10


日刊大衆公式チャンネル


Copyright(C) 日刊大衆 Futabasha Publishers Ltd. All rights Reserved.