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川井憲次(作曲家)「映画と完全に同化する音楽を作りたい」職人に徹する人間力

[週刊大衆2017年05月01日号]

川井憲次(作曲家)「映画と完全に同化する音楽を作りたい」職人に徹する人間力

 ちゃんと数えたことはないんですが、映画、ドラマ、アニメのBGMを年間だと、500曲くらい作ってるんじゃないかと思います。今回やった映画『イップ・マン 継承』は、エンディングを入れて30曲くらい。スケジュールがそんなにないので、1か月弱くらいで、作りましたね。音楽でもって、映像の流れをリードしていかなければならないので、責任が重いなと、いつも思っています。

 作曲する際は、ふとした瞬間に音楽が、降りてきたっていう人もいますが、僕は一切ないですね。降ってきてほしいですけどね。仕事場で、“やらなきゃ”って思うときだけ。映画だと、映像が出来上がっているので、それを見ていると、この映像がどんな音楽を求めているのかが、だんだん見えてくるんですよ。

 ただ、行き詰まったりすることも当然ありますよ。一番、悩むのが、音楽の立ち位置。登場人物に寄り添うのか、映画の世界観を俯瞰で見るかによって、つけ方が違うんです。例えば、『暴れん坊将軍』でいうと、戦う時に流れる歌は、完全に俯瞰の音楽。

 でも、悲しいシーンには、主人公の気持ちにふっと寄り添う音楽になるんです。それをどっちにするかとかですね。でも、最近、行き詰まったときの解決方法がわかったんです。昼寝したり、YouTubeを見たり、全然関係ないことをするんです。1回、冷静になって見直すと、“なにやっていたんだろう”ってなるんですよ。

 夜中に書いたラブレターを翌朝に見ると、“うっ”ってなるじゃないですか。あれと一緒。ハマると、どんどん視野が狭くなっていって、気持ち悪い音楽になってしまうんです。まあ、終わった後は“もう出つくした”って毎回思いますけどね。でも、新たな仕事がくるので、そうも言ってられないんですけど。

 僕はアーティストではなく、職人なんだと思います。監督のリクエストが一番大事なので、その意に沿う音楽を作りたいんですよね。自分が突出して、映画を台無しにするようなことは絶対にしてはいけない。映画と完全に同化して、作りたいと思っていますから。

 自分のソロアルバムの話もあったんですが、いざ作ろうと思うと、何を作ったらいいのかわからなくて、何も作れないんです。やっぱり、アーティストじゃないですね。

 この仕事をやっていて、楽しいのは“なんだこの音?”って思ってもらえるような音楽を作れるとき。去年、『モブサイコ』っていうコメディアニメの音楽をやったんですが、かなり自由にやらせてもらっちゃいました。チューニングをわざとめちゃくちゃにして、汚い音でグチャーって鳴らすんです。

 新しい楽器とか、新しい奏法とかを作れると楽しいですね。昔やった『リング』というホラー映画のときは、バイオリンを使ってるんですが、きれいに弾いたら、怖さは出ないだろうなと思って、ギーッってバイオリンが壊れるほどの、乱暴な弾き方をしてみたり。ガラスを引っ掻いたような気持ち悪い音で、もはや、音楽というかノイズに近かったですけどね。プロの人に、汚く弾いてくれなんて失礼なお願いはできませんから、自分で弾きましたね。

 曲を作るとき、自分が気持ちよくなることが大事だなと思うんです。そういうときは、上手く出来たときですから。それでしか判断できませんからね。自分を信じるしかない。

 まあ正直な話、仕事が来ればやるし、来なければやらないだけですよ。今年、還暦ですから、なるべく病気をしないように、ストレスなく生きていきたいですね。駅弁とかを買って、それをつまみに、家で缶ビール飲みながら、『ブラタモリ』を見る。これが、一番の楽しみですから。

撮影/弦巻 勝

川井憲次 かわい・けんじ
1957年4月23日、東京都生まれ。バンド活動の後、自宅録音に興味を抱き、CM等の仕事を経て映画音楽の世界へ。映画『機動警察パトレイバー THE MOVIE』、『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊』などの押井守監督の作品の音楽を手掛け、一躍脚光を浴びる。その他にも、『DEATH NOTE デスノート』、『貞子3D2』(13)などの映画の他、ドラマ『科捜研の女』シリーズや、大河ドラマ『花燃ゆ』などの数多くの有名作品の音楽を手掛けてきた。日本のみならず、韓国や中国が関わる作品にも音楽を提供。今年公開されるハリウッド映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』のエンディング曲も担当しており、世界的に活躍している。

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