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太田和彦(デザイナー・居酒屋研究家)「僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている」居酒屋で鍛えた人間力

[週刊大衆2017年07月17日号]

太田和彦(デザイナー・居酒屋研究家)「僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている」居酒屋で鍛えた人間力

 居酒屋の主人と客では、主人のほうが偉い。そのバランスは51対49。だから、客はその店のルールに従わなければならない。ルールに文句を言うのは田舎者。江戸の居酒屋は、そういう気風です。

 スタイルを持つのは、大事なことで、それに馴染む人は通えばいいし、嫌なら行かなければいい。神楽坂の『伊勢藤』っていうお店は、文化財級の居酒屋なんだが、うるさくすると、“お静かに”と注意される。

 だから、みんな一人で黙って杯を傾ける。何も考えずに、無の境地になりたい人が行く。古い居酒屋は、そこが好きな人ばかり来ているから、さぞかし賑やかだろうと思いきや、だいたいシーンとして、全員、無の境地(笑)。

 追加の酒を頼む時も、声を出さずにアイコンタクトだけ。常連になれば、向こうから、よき頃にきます。“すみませーん!”なんて呼ばなきゃ気づかないようじゃ、まだまだ。

 しゃべりたくなったら、それ向きの店に行けばいいんです。ここ『池林房』は、作りが特徴的で、屋内だけど屋台をいくつも置いている。そうするといやでも相席だから、自然に会話が始まって、必ず司会する人が出てくる。映画、演劇、文章書きと雑多な人が集まって、ワイワイやる雰囲気が好きで、通い始めて30年ぐらいになるかな。

 色んな個性を楽しめるのが、居酒屋巡りの何よりの魅力じゃないかな。みんな同じでは、つまらない。チェーン店は、どこも同じだから、行く理由が何一つない。僕が行くのは、古い一軒家で、家族経営でやっている小さな店。その反対は、昨日できた大きな店。居酒屋に大切なのは歴史と個性で、それがない店には行きません。

 古くから続く店では、飲み方が大事。50歳、60歳になってグデングデンに、その辺に倒れているのはバカです。愛すべき人かもしれないけど。今のオヤジの8割がそうだけど、ベラベラと自分の自慢話を大声でする。面白くないので話題を変えると、“人の話を最後まで聞け”と怒りだす。そういうオヤジが最低です。

 話をしに、酒場に行くわけじゃない。話しているより、酒を飲んでるほうが楽しい。でも、若いうちは逆。飲んで、議論して喧嘩して、仲直りしてまた飲んでが、とても大事。そういう時は、酒はなんでもいい。何を飲んでも一緒だから。

 でも、40歳も見えてくると、ちょっと落ち着いて自分を見つめ直してみたくなる。すると、自分のための居酒屋通いが始まる。僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている。人から尊敬される精神的な男前。“あの人が来ると、店の雰囲気が上品になる”と言われるような飲み方が、永遠の憧れです。

 よく通っている目黒の居酒屋に、そういう人がいて、見習わなくてはと、話をするようになった。その方の話し方には、人間力がとても表れていて、穏やかに笑いを取りながら、深いところをつく。

 いい酒を飲んだなと思うと、“ああ、面白かった帰ろう”となる。電車がないからではなく、気持ちが満たされたから帰る。

 レスラトランは胃袋を満たすところ、居酒屋は心を満たすところです。レストランは胃袋を満たすところで、鰻屋をハシゴする人はいないが、居酒屋はハシゴする。それは気持ちがまだ満たされていないからです。

 いい酒を飲んだ後は、たぶん、いい顔してるんじゃないかな。

撮影/弦巻 勝

太田和彦 おおた・かずひこ
1946年生まれ。資生堂宣伝制作室デザイナーを経て、89年に、デザイン事務所を設立。01~08年には、東北芸術工科大学教授。本業のかたわら日本各地の居酒屋を訪ね、数々の著作を発表し、毎週火曜日夜10時から放送中の『太田和彦のふらり旅いい酒いい肴』(BS11)に出演するなど、多彩な才能を発揮。

太田和彦(デザイナー・居酒屋研究家)「僕は、居酒屋は男を磨くところだと思っている」居酒屋で鍛えた人間力

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