自社批判が書かれたコラムの掲載を巡って右往左往。誇り高き"クオリティペーパー"が前代未聞の窮状に陥っている。

「信頼関係が崩れた」

この一言に、すべてが込められていると言っていいだろう。

ジャーナリスト・池上彰氏(64)が朝日新聞に付きつけた"三下り半"が、巨大メディアを揺さぶっている。

騒動の詳細は後述するが、事の発端は、8月5日、6日付の同紙に唐突に掲載された「慰安婦問題を考える(上、下)」という検証記事。

終戦記念日を控えた時期とはいえ、なんとも不可解なタイミングだった。5日付の同紙1面に載った編集担当執行役員・杉浦信之氏の署名記事『慰安婦問題の本質直視を』を読むと、朝日の意図が透けて見えてくる。

杉浦氏はこの記事で、冷え込んだ日韓関係を憂いつつ、混迷の原因に慰安婦問題があると、まず指摘。続けて、〈一部の論壇やネット上には、「慰安婦問題は朝日新聞の捏造だ」といういわれなき批判が起きています〉として、読者への説明責任を果たすための特集だと記している。

「はっきり言えば、ここ長らく世論から"親韓" "親中"と攻撃され続け、耐え切れなくなったんでしょうね。今年に入って、購読者離れも進んでいると聞きますしね。そのために、批判の中心にある"慰安婦問題"にケリをつけようとした。ただ、この問題は朝日にとって喉に刺さったトゲ。これまでの報道で"誤報"を垂れ流していたんですから……」(政治ジャーナリスト)

朝日は同検証記事で、これまでの慰安婦問題報道における主に二つの誤りを認めた。

●戦時中、日雇い労働者らを統制する山口県労務部報国会下関支部で動員部長をしていた吉田清治氏(故人)の「(韓国)済州島で、200人の若い朝鮮人女性を"狩り出した"」との証言(「吉田証言」)を、80年代から90年初めに取り上げたが、この証言は虚偽だったと判断したこと

●戦時下の日本国内や植民地であった朝鮮・台湾で、労働力として動員された女性のことを「女子挺身隊」といったが、彼女たちと、将兵の性の相手をする「慰安婦」とを、90年代初めに混同したこと

同記事で、朝日は〈読者のみなさまへ〉として、「吉田証言」に関する記事を〈虚偽と判断し、記事を取り消します〉とのみ記し、謝罪は一切行われなかった。

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