自社批判のコラムを掲載拒否

「結局、この問題の潮目が変わったのは、今年に入って安倍政権の手で『河野談話』の見直し作業が進んだからですよ」(自民党中堅議員)

91年、韓国の元慰安婦らが補償を求めて日本政府を訴えたことを受け、この問題の本格的な調査が始まる。

国際的な注目を集める中、93年8月に当時の河野洋平官房長官から発表されたのが河野談話だった。

「慰安婦に関して同談話は"総じて本人たちの意思に反して行われた。お詫びと反省の気持ちを申し上げる"として、強制的な連行を認め、政府として公式に謝罪と反省を示しました。ところが、河野談話作成に際して、朝日で"慰安婦の作り話"をしていた吉田清治氏とも政府関係者が接触していることがわかった。談話の根拠が揺らぐ事態だが、朝日は"河野談話には採用されていない"として素知らぬ顔です」(前同)

普通に考えれば、組織で重大な誤りが判明すれば、然るべき立場の者が記者会見を開いて謝罪するもの。

普段、企業の不祥事やミスを追及する立場にあるメディアが自らの過ちにどう対応するのか、当然、世間は注目している。

「朝日のような大メディアが"間違っていました。だから取り消します"だけでは、済まされないでしょう。おまけに、『女子挺身隊』と『慰安婦』の混同は、他紙でもあったと"逆ギレ"する始末。ホント、恥ずかしいですよ」(朝日新聞A記者= 30代)

こうした朝日の態度に怒ったのが、従来から慰安婦の「強制連行」は存在しなかったと主張している読売新聞や産経新聞、『週刊文春』や『週刊新潮』などの各メディアだった。

「ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、8月15日に開催された『日本の前途と歴史教育を考える議員の会』の会合で、"朝日はまず1つ2つやるべきこと(釈明と謝罪)をやったうえで、廃刊にすべきだ"とまで言っています」(自民党関係者)

評論家の小沢遼子氏は、こうした現状をどう見るか。

「櫻井さんの廃刊要求はいくらなんでも言い過ぎ。攻撃しているメディアだって、誤報はなかったかと言えばそんなことないでしょう。いずれにしても、慰安婦問題をキチンと再検証すべきでは。むろん、朝日は虚偽部分はちゃんと謝るべきよね」

批判の集中砲火を受けた朝日は、自社批判を行う週刊誌の新聞広告掲載を拒否するという愚挙に出た。

ところが、「報道の自由を守るべき大新聞がいかがなものか?」との批判が社の内外から噴出すると、今度は、広告掲載はするが、記事の見出しの一部、たとえば「売国」「誤報」(週刊新潮)の文言を黒塗りにする対応に切り替え、さらに火に油を注ぐ結果となった。

「『声』欄(読者投稿欄)もバッシングの原因になりました。8月5日以降、当然ウチの検証記事についてのさまざまな意見が大量に寄せられているのに、それが一件も出ていない。それを指摘されるや、やっと『声』欄に批判的な声が載せられた。本当にやり方がせこい」(朝日新聞B記者= 40代)

もはや、バッシングの対象は検証記事にとどまらず、過去の朝日の誤報記事や別のスクープ記事への疑問、さらには社そのものの体質にまで拡大。そんな8月28日、朝日は第2弾の検証記事を出す。

「ところが、ここでも謝罪の言葉はなし。〈慰安婦問題 核心は変わらず 河野談話、吉田証言に依拠せず〉のタイトルからも察せられるように、開き直りとも受け取れる内容だったことから、火に油を上回る"炎上状態"となりました」(前同)

打つ手打つ手が、ことごとく裏目。まさにドツボにハマりまくっている朝日。

だが、何より致命的だったのは、池上彰氏のコラムを掲載拒否した一件だろう。

元NHKの記者で、わかりやすいニュース解説が人気のジャーナリスト・池上氏は、新聞各紙の報道を分析する『新聞ななめ読み』というコラムを朝日で月に1回連載している。8月29日掲載予定分で、この検証記事を取り上げたところ、朝日は掲載を拒否。池上氏は連載中止を申し入れたという。

ところが、各メディアがこの"言論弾圧"に一斉に異を唱えると、一転、謝罪し、9月4日にコラムが掲載された。

「池上さんのコラムのポイントは、"訂正が遅きに失した" "謝罪の言葉がない" "他社を引き合いに出すのは潔くない"と、非常にシンプルで真っ当なもの。それだけに、掲載拒否には社内でもかなりの抗議の声が出たと聞いています」(朝日新聞C記者= 40代)

6日には、わざわざ〈読者の皆様におわびし、説明します〉と題し、この"池上コラム騒動"の経緯を説明したが、池上氏の今後の執筆は現時点では未定だ。

しかし、なぜ、朝日は30年以上も虚偽の記事を放置し、いまだに謝罪さえしないのか?

絶対匿名を条件に、朝日新聞政治部のベテラン記者が語る。

「2012年6月に就任した木村伊量(ただかず)社長は、45年ぶりの早稲田大学出身の社長。左に寄りがちなウチでは珍しい保守派。だから、安倍政権に"スリ寄りたい"気持ちから今回の検証記事で"反省"のポーズを見せたかったんでしょう。社長にすれば、"俺だから今回の訂正を実現できたのに、なぜバッシングされるんだ!?"というのが本音なのかも……」

この説、社内ではそれなりに流布しているという。

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