■たとえば東京で数日間の公演をやるとなったら
たとえば東京で数日間の公演をやるとなったら、普通その間はホテルに泊まりますよね。でも泯さんは、その日の公演が終わったら片道2時間半かけて山梨に帰り、翌朝、畑仕事をしてから、また2時間半かけて東京に来る。これを毎日繰り返すんですよ。
泯さんは40歳のとき、「畑仕事によって自らの体を作り、その体で踊る」と決めたそうなんですが、これがもう徹底しているんですよね。
僕は「田中泯を撮る」という体験をきっかけに、ドキュメンタリーにも、作品にする面白さがあることに気づきました。
たとえば、大林宣彦監督のドキュメンタリー(WOWOWで放送された『大林宣彦&恭子の成城物語〜夫婦で歩んだ60年の映画作り〜』)もそう。大林さんの奥様は恭子さんという方なんですが、お二人は20歳くらいで出会って以来、大林さんが82歳で亡くなるまで、ずっと二人で映画を作っていた。一言に「大林映画」と言っても、実は恭子さんがものすごく重要な役割を担っていたんです。
ずっと僕は「大林作品は大林夫妻の映画だ」と思っていて、世界中にこんな夫婦はちょっといない。これは映像に残しておいたほうがいいだろうと思ったんです。
取材対象の人と一緒にいると、興味がどんどんと湧いてくる。だから「ドキュメンタリーを作りたい」というより、「この人が面白いから撮りたい」というのがモチベーションかもしれません。
今「映画監督」というジャンルに入ってしまった僕は、これからも映画を撮り続けていくのだろうと思っています。ただ、今後どういう作品を撮っていくのかは、自分自身にも分かりません。
僕にとっては、ドキュメンタリーでも普通の劇映画でも何も変わらないですし、撮りたいと思って作るものも、オファーを受けて撮るものも、どれも面白いんですよね。
犬童一心(いぬどう・いっしん)
1960年生まれ。東京都出身。高校時代より自主映画の制作をはじめ、1997年『二人が喋ってる。』で長編映画監督デビュー。2007年『眉山‐びざん‐』、2009年『ゼロの焦点』、2012年『のぼうの城』で、それぞれ日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。代表作として『ジョゼと虎と魚たち』『引っ越し大名!』『最高の人生の見つけ方』などがある。
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