犬童一心(撮影・弦巻勝)
犬童一心(撮影・弦巻勝)

 一昨年まで、僕は「会社員」として映画やCMを作ってきました。僕は、あらゆるものをジャンル分けしないように生きてきたので、「会社員」という抽象的な感じが気に入っていたんですよね。でも、定年退職してしまったことで、残念ながら「映画監督」というジャンルの人間になってしまいました。

 そんな、会社員から映画監督になる過渡期の中で撮影した作品が、まもなく公開になります。それは、『名付けようのない踊り』というドキュメンタリー映画で、ダンサーの田中泯さんのダンスと生活を撮り続けたものです。

 2005年公開の『メゾン・ド・ヒミコ』という映画に出演してもらったのをきっかけに、僕は泯さんのダンスを見るようになりました。あるとき「今度ポルトガルで踊るから見に来ない?」と誘っていただいたんですが、そこでふと、「泯さんのダンスを撮ってみようかな」と思い立ったんですね。

 ただ、撮るからにはちゃんと撮らなければダメだと、ふだん一緒に映画を作っているスタッフとポルトガルへ行って、踊る泯さんをカメラに収めました。帰国して、15分ほどに
編集したものを観てみたら、これが映像作品として面白い。だから、長編にしたら、もっと面白いんじゃないかと思ったんです。

 もともと僕はダンス映画が好きで、さまざまな作品を観てきたし、ダンスシーンがあるCMや映画も撮ってきました。

 でも泯さんのダンスは、それらとはまったく違っていた。既存のジャンルに入れることができないんです。そこが、すごく面白いと思ったんですね。

 長編を作るにあたって、泯さんのダンスだけじゃなく、山梨にある彼の自宅に通って生活の仕方まで撮ることにしたんですが、これがますます面白い。

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