高信幸男(撮影・弦巻勝)
高信幸男(撮影・弦巻勝)

 よく「ご自身の名前が珍しいから、名字に興味を持ったのですか?」と尋ねられるのですが、私が生まれ育った地域には『高信』という姓がとても多くて、中学生まではありふれた名字だと思っていました。高信以外も同じ名字の家が多くて、当時、全校生徒が350人ほどの中学校で30種類くらいの名字しかありませんでした。ところが、高校に入ると、さまざまな地域から生徒が集まってくる。すると、50人のクラスで40を超える名字があったんですね。ここで初めて「名字ってこんなに種類があるの!?」と気づいたんです。

 では、人口が1億人を超える日本には、いったいどれほどあるのだろう? そんなことに興味がわいて、電話帳を使って調べ始めたのが16歳のとき。だから、最初は興味の対象が「名字の数」だったんです。

 あるとき、電話帳を眺めていると『四月一日』というお名前を見つけました。どうしてここに日づけが? 印刷ミスだろうか? 気になってしかたがないので、直接電話をかけてみることにしました。すると「はい、ワタヌキです」とおっしゃるじゃないですか!

 由来を伺うと、日本人は、明治の始め頃まで、同じ着物に綿を入れたり抜いたりして一年中着ていたそうなんです。そして、旧暦の4月1日、現在の5月中旬頃に“綿を抜いた”。だから“ワタヌキ”なんだと。

 数を調べるより、珍しい名字のほうがはるかに面白い! それから電話帳を片手に、全国を回って名字を調べ歩くようになりました。

 昔の電話帳には電話番号も住所も書いてありましたから、珍しい名字を見つけたら、だいたいはアポなしで会いに行ってしまう。そうすると皆さん、意外な由来やユニークなエピソードを話してくださるんですね。

 たとえば、岩手県でお会いした『銭袋』さんは、小学生の頃からずっと会計係だったそうです。そりゃそうですよ、聞けばお兄さんの名前が金蔵さんで、弟は金也さん。これはもう、銭袋兄弟以外に会計は任せられません(笑)。

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