足立紳(撮影・弦巻勝)
足立紳(撮影・弦巻勝)

 若い頃に“映画の仕事をしたい”と考えた僕は、映画学校で演出を学んだ後、『セーラー服と機関銃』(1981年)で有名な相米慎二監督の内弟子のような立場になりました。

 僕が弟子入りした頃の相米監督は、旅館に籠もって次回作の準備をされていました。神波史男さんという脚本家の方と朝から晩まで難しい話をしながら、ずっと脚本を作っていたんです。それが1年間続きました。

 ところが、その企画は映画化されないということになりました。「映画というのはこんなに企画が成立しないものなんだ」と肌で実感しましたね。

 そうした経緯もあって、「ここは自分が生きられる場所ではないのでは」と思って、映画ではなく演劇を指向した時期もありました。

 それでも、20代の後半に『MASK DE41』という映画の脚本を担当する機会が巡ってきたんです。

「これで一本立ちできるぞ」と思ったのですが……映画の完成後に製作会社が潰れて、作品が宙に浮いてしまったんです。

 以後、十数年は苦しい時代が続きました。特に精神的にキツかったのが、同棲していた今の妻が、某プロレス団体で働き始めたことでした。彼女はプロレス界の水にあったようで、仕事がとても楽しそうなんです。しかも、なかなか家に帰ってこなくなった。「これは、プロレスラーとつきあっているに違いない」なんて卑屈に思ったりもして(笑)。

 なんとか粘って結婚することができましたが、だからといって、仕事の状況が変わるわけではありません。数年後に子どもができると、いよいよ経済的に苦しくなって、100円ショップで働き始めました。37歳の頃です。

 ところが、その体験こそが人生を変えるきっかけになりました。100円ショップを舞台にした『百円の恋』という脚本が、「松田優作賞」を受賞し、今では『全裸監督』で知られる武正晴監督によって映画化されたんです。そして、映画『百円の恋』(2014年)は高く評価され、僕は日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞することができました。

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