■小説には私小説というジャンルがあるのに、なぜ映画の脚本でダメなのか?

 その後は脚本家としてチャンスが広がりましたし、「小説を書いてみないか」というお話もいただきました。また、自分で脚本を書いた『14の夜』(2016年)という作品で映画監督になる夢もかないました。

 今は、脚本をメインとしつつ、小説も書き、監督としては3月から新作の撮影が控えている状況です。

 脚本にしても、小説にしても、僕は、自分の経験や身の回りのことをネタにすることが多くあります。

 脚本の世界では、よく「身の回りのことを書くな」といわれるのですが、“小説には私小説というジャンルがあるのに、なぜ映画の脚本でダメなのか?”という思いもあり、身の回りのことを書き続けています。

 小説では、最初に出版された『喜劇愛妻物語(『乳房に蚊』より改題)』に始まり、“夫婦の生活”をテーマにすることが多いですね。

 最新作の『したいとか、したくないとかの話じゃない』も、コロナ禍の東京を舞台に、夫と妻が、夫婦であろうとすることを簡単には諦めない話です。

 うまくいかなくなった夫婦を描いた作品では、「離婚して先に進む」という決着も多い。でも、そうじゃなくて、グジャグジャの状態だとしても、夫婦の形のまま頑張らなきゃいけない場合もあるんじゃないか……そんなことを伝えたいんです。離婚という結末にいたったとしても、そこにいたるグジャグジャをちゃんと書きたい。これからもこのテーマを書いていきたいですね。

足立紳(あだち・しん)
1972年、鳥取県出身。相米慎二監督に師事し、2004年に映画『MASK DE41』で脚本家デビュー。その後、2014年に映画『百円の恋』で、日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞。脚本家としてブレイクし、映画『嘘八百』(2018年)、『こどもしょくどう』(2019年)、『劇場版 アンダードッグ 』(2020年)などのヒット作を手掛ける。2016年には『喜劇 愛妻物語』(幻冬舎)で作家デビュー。同年公開の映画『14の夜』では監督も務めた。

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