■民放に寄せた『カムカムエヴリバディ』

 ここには事前に、映画業界で働くひなたと、もともとダンサー志望でエンタメ界で活躍している可能性が高い算太が、どこかで出会うかもしれないという伏線がしっかり張られていた。それもあって、この放送があった週の3月17日は番組最高の平均視聴率、19.5%を記録している(ビデオリサーチ調べ/関東地区/世帯/以下同)。匂わせての伏線回収という手法が見事に成功したのだ。

 この手の伏線回収が取り入れられた背景には、最近、民放のミステリードラマでよく使われている。近作では『最愛』(TBS)、『真犯人フラグ』(日本テレビ)などだ。視聴者は毎回、提示される伏線をもとに、真犯人をツイッター上で考察する。そこでの盛り上がりが、視聴率をより押し上げていくのだ。前作『おかえりモネ』の全話平均が16.3%、さらにその前の『おちょやん』が17.4と低調に終わったこともあり、制作陣が挽回のために取り入れたのではないだろうか。

 この狙いは見事にあたったわけだが、一方で弊害もあった。展開が二転三転するため、よく注視していないと、あっという間においてかれてしまうのだ。朝ドラはもともと、忙しい朝の家事をしながら見られるよう、展開はゆっくり、そして表現はわかりやすく作られている。しかし『カムカム』は考察をあおるために謎を残しがちで、なおかつ3人ヒロイン態勢のため展開が早い。実際に筆者の知り合いも、3日間、見逃しただけでついていけなくなり、離脱してしまった。好調の陰で、このようにおいていかれてしまった視聴者は、けっこういるのではないだろうか。

 朝ドラにとっては諸刃の剣ともいえる、考察重視手法。『カムカム』はとりあえず成功したといえるが、今後、朝ドラがこのやり方を続けていくのか、ファンとして注目していきたい。(板橋六郎)

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