■言葉は日々新たに生まれるし、新しい意味も生まれる
辞書というのは、改訂版を出したら一段落というわけにはいきません。言葉は日々新たに生まれるし、新しい意味も生まれる。あるいは、意味は変わらなくても、社会全体の考え方が変化した結果、説明を見直す必要が出てくることもあります。
たとえば、2008年に出た第6版まで、「恋」は男女間に限定されていました。でも、第7版からは「人を好きになって……」と、性別を問わない説明にしています。同様に、「口紅」も「〔女性が〕くちびるにつける紅」だったのを、現在は「女性が」を削除しています。
私は日々、言葉へのアンテナを張り巡らして生活しています。街を歩いても、電車に乗っても、テレビを見ていても「これは?」という言葉に出会うとスマホに記録する。テレビは基本的に録画して見るのですが、「これは?」のたびに一時停止して記録します。ドラマなどはストーリーが分からなくなるのでは、と言われますが、大丈夫です(笑)。
そうやって記録した、第9版の候補は、この3か月ほどですでに何百語もたまっています。
私は、大学院を出た頃、『三省堂類語新辞典』に外部執筆者として関わりました。辞書というのは、中心となる編集委員の外に、編集に協力する外部執筆者が何人もいるんです。あるインタビューで「アルバイトみたいなものだった」と答え、ネットにもそう書かれているんですが、適切な表現ではなかった。バイト感覚でできる仕事じゃないんですね。2005年には現在の『三省堂国語辞典』の編集委員になりました。
初めて辞書に関わって以来、人々に役立つ理想の辞書を作りたいという気持ちを持ち続けています。
理想は、読む人が幸せになる辞書。開いた人がその言葉を調べることによって自分の悩みが解決され、スッキリと明るい気分になれる辞書です。
今はまだ道半ばですが、理想に近づいていると信じます。現在の国語辞典がどんなものか、ぜひ手に取って確かめてください。日頃のモヤモヤがけっこう解消されるはずです。
飯間浩明(いいま・ひろあき)
1967年10月21日生まれ。香川県出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、同大学院博士課程単位取得。国語辞典編纂者として『三省堂国語辞典』の編集委員を務める一方、言葉に関する著述を続ける。主な著書は『辞書を編む』『ことばハンター』『つまずきやすい日本語』『日本語をつかまえろ!』など。
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