■“推しの彼”への純粋な気持ちに寄り添う平野紫耀の優しさ

 出会いを工作する詐欺が実在していて、大好きなアイドルに会いたいファンの気持ちを利用した悪質手口は、巧妙で実に痛ましい。被害にあった江本が、大好きなアイドルグループの推しの彼について黒崎に説明していたのだが、これがファンの気持ちを代弁しているようだった。

 メンバーはいい人ばかりで、仲良しでお互いを助け合っている、そんな彼らを見て自分は元気がもらえる。だから「ありがとう」と伝えたかっただけだと言うのだ。まるで、黒崎を演じている平野を想うファンのことではないか。

 江本の話を聞いて少し引き気味な黒崎だったが、しっかり被害金額を取り戻してくれるところが優しい。そして、本当のことを伝える。「うーん、そうだね。たぶん推しの彼には、江本さんの想いは一生伝わらない。でもさ、その想いって柄本さんにとっての大事なものでしょ」と。

 黒崎は嘘をつかない優しさがあって、現実的な話をしたうえで寄り添ってくれたことが分かる。そして、この優しさが、「ファンの皆さんに喜んでもらために生きている」という平野本人に重なって、切なくなった人も多いだろう。

 だがこれには裏話があって、黒崎の台詞として伝えることを平野が「胸が痛い」と言っていたと脚本家が明かしている。アイドル平野紫耀として活動している自分が“推しの彼”であることを理解している上でこの感性を持っていることに安心感があるし、黒崎を通じて伝わって、役への深みになって成長しているのを感じる。黒崎の次の仕事が楽しみだ。(文・青石 爽)

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