■恋も友情も大切にする渉

 渉(田中みな実/35)はアサヒに告白をしたが、自分ではなく、ほかに好きな人がいることを知っていた。その相手が、かしこであることに確信を持ちながら、「かしこも当たって砕けてみちゃえば?」「アサヒくんに砕けた者同士、飲もう」とけしかける。

 かしこはフラれることはない、でも素直じゃないかしこが好きな気持ちを伝えずにいたら、アサヒが記憶を取り戻してしまうだろうと見越しているのだ。記憶を取り戻したら、日本を代表する現代美術家・漆原澄人として生きていくアサヒは、もう別世界の人だ。当たって砕けても、私がいるから大丈夫だという熱い友情に泣けた。

 渉は思ったことはストレートに伝えるタイプで、感情が見えるから分かりやすい。高校時代の友人に久しぶりに会って、うれしさを爆発させちゃうようなところは、まさに渉らしいといえるだろう。

 その反面、肝心なことは言葉にしないで内に秘めている。かつて、舞台女優として活動していたが、裏方として劇団を支える側になっても文句ひとつ言わないし、一緒に暮らしていた劇団主宰の彼氏が行き詰まればゴーストライターとしてシナリオを書くこともあった。

 それでもおいしい食事を作って帰りを待つといった、けなげな部分がある。自分に期待しなくなったのは、かしこも渉も同じなのだ。誰かのために役に立ちたいと思うのは、人柄の良さもあるが、独身女性が生き抜いていくために必要なことでもあるだろう。彼氏と別れてしまい、アサヒへのほのかな想いも届かなかったけれど、渉にも幸せになってほしい。(文・青石 爽)

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