■一線を越えた黒崎の攻撃力が凄まじい

 まるで、悪魔が高笑いをしているかのような恐ろしさだった。いつもの黒崎なら、10億円を奪って電話で「ごちそうさまでした」と伝えてトンズラするだろう。しかし、わざわざ理事長室に足を運んだのは、生活困窮者に生活保護を受けさせ、医療費を水増し請求させていた事実をつかんだことを伝えたかったからだ。

 巧妙な詐欺の手口には驚くばかりだが、証拠を隠蔽しようと必死な宇佐美がうろたえているのを見て笑う黒崎が恐かった。もう笑うのを我慢できないといった感じで、腹を抱えて床を転がりながら高笑いをする黒崎は恐い人だった。

 クールにシロサギを喰って満足するだけでは終わらず、なお踏みにじりあざ笑うなんて、冷酷そのもの。10億円の大金よりも、保険点数を水増しして裏金を作っていたという事実を掴んだこと、それが公表されたことに喜びを感じているのだろう。宝条の痛いところを刺して食いちぎった黒崎は、もう誰も止められない。

 そして、この芝居に平野の凄みを感じた。黒崎でもない、演じている平野でもない、ただの恐い人になっていたのは、黒崎という人物を全身で受け止め、染み込ませているからだ。黒崎がこれまで内に秘めていた悪意が自然に湧き上がってきて、体と表情が自然に動いたといった感じだった。だから、まるで別人のように感じたのだ。

 平野の芝居をもっと見たい。残り2話で作品が終了するなんて嘘だよ、騙してごめんねと言ってほしい。(文・青石 爽)

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